人類学研究所国際化推進事業 活動一覧
《国際化推進事業》国際シンポジウム「Disaster and the Role of the Anthropologist: Efforts in Asian Countries」実施
2016年10月02日
[日時]2016年11月2日(日)
[会場]南山大学S58教室
[プログラム]
10:30 Introduction/Akira GOTO (Nanzan University)
10:40 "Mt. Pinatubo Post-Disaster Efforts of Local Community"
/Cynthia Neri ZAYAS (University of the Philippines)
11:40 Lunch
13:00 "Social Issues in Aceh Post-Tsunami Rehabilitation"
/Dedi Supriadi ADHURI (Indonesian Institute of Sciences)
14:00 "The Indian Ocean Tsunami and the Role of the Media in India"
/Ravindran GOPALAN (University of Madras)
15:00 Break
15:20 Comment/ Shuich KAWASHIMA (Tohoku University)
15:40 Commen /Tomoya AKIMICHI (Fujisan World Heritage Center)
16:00 Discusion
17:00 Closing Remarks
[報告]
10月2日(日)に国際シンポジウム「Disaster and the Role of the Anthropologist: Efforts in Asian Countries」が開催されました。これは2015年度から開始した国際化推進事業の一環であり、近年日本と同様の災害に見舞われているアジアからの人類学者とともに、人類学者の役割について議論するネットワークを造る目的でおこなわれたものです。そのためフィリピン、インドネシア、インドから3名の講師をお招きして実施しました。
Cynthia Neri ZAYAS氏(フィリピン大学)は、「Mt. Pinatubo Post-Disaster Efforts of Local Community」とのタイトルで、フィリピンで最も多い台風災害について紹介されたあと、これまでのフィリピンにおける研究者の取り組み(絵本による子供への防災教育やNGOでの取り組みなど)について報告されました。フィリピンではまだ防災、復興研究が少ないなか、ご自身が取り組んでいる研究としてピナツボ火山噴火とそこに暮らすアヤタの人びとにフォーカスを当て、自然の恵みと災害の両面について論じました。
Dedi Supriadi ADHURI氏(インドネシア科学研究院)は、「Social Issues in Aceh Post-Tsunami Rehabilitation」と題し、2004年のインド洋津波被害後のアチェにおける復興について、実際にご自身がおこなっている復興プロジェクトの活動を紹介しながら報告いただきました。被災後、地域の漁業、農業が大きな打撃を受け、行政やNGOなど多くの機関、団体が復興支援に入ったが、支援物資や支援金の分配をめぐる争い、団体同士の競争などの社会問題が起こりました。このような状況において、地域コミュニティと共同的に復興支援をおこなうことがいかに重要なのかが示唆されました。
Ravindran GOPALAN氏(マドラス大学)は、「The Indian Ocean Tsunami and the Role of the Media in India」と題し、メディア人類学、特に携帯電話でのコミュニケーションについて研究をしているお立場から、2004年のスマトラ沖地震に関するインドでの津波被害に関して災害報道の問題点について発表いただきました。多言語であるインドはメディアの数も多く、またその内容は娯楽に偏っているという特徴があります。そのため、災害報道に関しては、人道的に問題があるものも多く、より客観的な報道が求められることが報告されました。
その後、2人のコメンテーターよりコメントが寄せられました。川島秀一氏(東北大学)は、日本におけるさまざまな災害の事例を挙げながら、災害後の行政とのやり取り、伝統文化の復興などに言及し、文化人類学者は客観的に災害を捉えるという努力をしなければいけないことを述べました。秋道智彌氏(富士山世界遺産センター)は、日本人の歴史的な災害観に触れながら、人類学者が災害前と後の生活を丹念にみることの重要性、つまり地域や民族が異なるところで何が起こっているのかに切り込むことのできる人類学の強みについて強調しました。続く総合討論では、同じような災害に直面するアジア各国の人類学者同士が知恵を共有することの重要さが確認されました。
この国際シンポジウムで印象深かったことは、一貫しておこなわれた自然災害に対し文化人類学ができることは何かという議論です。災害が災害たりえるのは、それが人とその社会へ影響を及ぼしたときであり、自然災害は時に人災へと姿を変えます。その時に、被災地となった地域に暮らす人びとが織りなす生活世界がいかなる状況に直面するのか。その議論は、ともすれば自然と人間、行政と被災者、メディアで報道する人とされる人、あるいは被災者同士など、さまざまな対立構造で語られうる可能性を含んでいますが、本シンポジウムを通じて、そこに安易に陥るべきではないという多くの示唆を得ることができました。
例えば、GOPALAN氏の発表で、インド洋津波被災後に、木製の漁船が強化プラスチック製に変化したことが取り上げられたことを受け、川島氏は東日本大震災後の閖上で、より安全な船を求める漁師たちの要望で和船が造られたことを紹介しました。そこでは和船の製造のためにすでに希少となっていた船釘が広島県鞆の浦で生産されるという、伝統文化の復興ともいうべきことが起こっているといいます。災害は負の現象ではあるけれど、そこだけに還元されることのない事象を丹念に追うことの可能性を感じることができました。また多方面にわたる復興の過程において、さまざまな分野の人が共同することの大切さ、そして文化人類学がその結節点の役割を果たすことができるのではないかということが確認されました。
総合討論の様子 |