人類学研究所国際化推進事業 活動一覧
《国際化推進事業》2018年度第3回公開シンポジウム「自然災害と共に生きるための知恵―復興と生業の変化―」実施
2018年12月23日
[日時]2018年12月23日(日)、13:00~18:00(開場12:30)
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[会場]南山大学Q棟・Q103教室
[主催]南山大学人類学研究所
[プログラム]
13:00 挨拶 渡部森哉(南山大学人類学研究所)
13:05 趣旨説明 髙村美也子(南山大学人類学研究所)
13:25 「輪中の洪水対策の歴史と現在」下本英津子(日本福祉大学)
14:05 「2015年ネパール大地震をきっかけとした新たな『観光』の街づくりーネパール、パタンのP地区を事例として」竹内愛(日本学術振興会特別研究員/南山大学)
休憩
14:55 「津波常習地における災害と生業の再編・地域変容」葉山茂(国立歴史民俗博物館)
15:35 「過熱するナマコ漁-2004年インド洋津波を契機とした潜水空間の拡張と収縮」鈴木佑記(国士舘大学)
休憩
コメント
16:25 川島秀一(東北大学災害科学国際研究所)
16:55 後藤明(南山大学人類学研究所)
17:25 総合討論
[開催趣旨]
自然災害後の生業の復興取組みにおいて、支援が被災地に与える影響を日本の木曽三川輪中の洪水、気仙沼の津波、ネパールの地震、タイのアンダマン海の津波等、アジアの災害事例から比較検討し、人類学が貢献できる役割を議論する。
2011年の東日本大震災以降、日本では、行政、報道機関、ボランティアによる復興対応がより強化・組織化されている。復興の方法においては、行政と地元住民との協同作業、地域の文化や伝統と科学技術の融合を基本に復興を目指している。一方で、科学技術重視のため、住民が望まない形の復興が促進されているとも指摘されている。自然災害は古より人類が向き合ってきた自然現象でもあり、各地域は、災害を乗越え共に生きる知恵を持ち合わせている。行政、NPO、NGOなどの機関が実践的支援を通して、被災地であるアジアの伝統社会にどのような影響を与えているのか、在来知と科学技術知は融合できるのか、人類学的に検討する。
[報告]
下本英津子氏には、歴史的に水害多発地域であり、環型堤防で囲まれた輪中の水害を乗越えるための対策の歴史と現在について論じていただいた。
竹内愛氏は、2015年4月に起こった大地震による被災地の積極的な復興活動の事例を示した。もともと形成されていた女性自助組織「ミサ・プツァ」が、積極的に復興プロジェクトである「伝統文化を生かした新たな街づくり、観光地化」に参加し、自らダンストレーニングを行い、観光業に一役担っている事例を報告していただいた。
葉山茂氏は、津波常習地である三陸地域の生業の変遷をハガキ資料から分析し、30年から50年の間隔で一度大津波が発生する地域では、生業活動の再編が行われていることを明らかにされた。
鈴木佑記氏には、漁撈を中心として海域を移動する漂海民であるモーケンの環境の変化による生活戦略について論じていただいた。
以上の発表に対し、川島秀一氏と後藤明氏よりコメントをいただいた。
総合討論では、コメンテーターの質問への返答とフロアーからも積極的な意見交換がなされた。特に、科学技術知の必要性・重要性もしくは不必要性、コミュニティーの存在、津波被害から発見された資料、行政の取り組みによる環境変化に伴う生業の変更への地元住民の考え方について議論が交わされた。災害には、種類によって質と量が異なり、個々の事例に即して議論する必要がある点が共有された。人類学の貢献については、空中の議論ではなく地に足をつけた長期にわたる調査による人類学的アプローチが災害の復興には必要である。それは、震災が起こるから生活が変化するのではなく、その以前から変化していることから、長い期間で生活の変化をとらえる必要があると意見が交わされた。
下本英津子氏 | 竹内愛氏 | 葉山茂氏 |
鈴木佑記氏 | コメンテーターを含めた総合討論 |