いつでも電話に出られるよう首からぶら下げられている携帯電話
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[エッセイ01:ここだけの話 No.1]今なお主流な対面式コミュニケーション(髙村 美也子)
2018年04月02日
[ここだけの話01]
今なお主流な対面式コミュニケーション
髙村 美也子
人類学研究所・研究員
現在インターネット環境が各地に整ったことで、私たちは、携帯電話、スマートフォンやコンピューターを媒介し、SNSやメール機能を駆使して相手と会うことなく連絡したり情報を取得することが、当たり前になってきています。アフリカ大陸の広い範囲でもインターネット環境は普及し、日常的にスマートフォンで情報が得られるようになり、携帯電話やSNSでコミュニケーションが取れるようになりました。他方、電気が普及していない地域や、経済的に携帯電話、スマートフォンを持てない人々、持っていても料金不足(プリペイド式)のため自分から電話やメッセージの発信ができない人は、対面式で情報を取得したり、コミュニケーションをとっています。一見、対面式の情報取得やコミュニケーションは不便そうに見えますが、そこには有用性はないのでしょうか。タンザニア北東部ムクジ村に居住するボンデイの人々を事例に、対面式コミュニケーションが行われる場所や方法をみていくことにします。
ムクジ村の人口は約3,000人(2017年)で、住宅戸数は約600軒(2017年)です。その内、電気の普及率は、3分の1程度です。電気の普及が進んでいない村ですが、携帯電話の電池の充電屋があり、ボンデイの人々にとっても、携帯電話・スマートフォンは身近なモノになりつつあります。
ボンデイの人々の生活についてですが、その活動範囲は、男女によって異なります。例えば、男性は村外での就労が可能ですが、女性は村外で就労することはほとんどありません。女性が商売をしても、自宅近くで行っています。性別によって行動範囲が異なるため、男性と女性によって情報取得方法やコミュニケーション方法も異なります。ここでは、対面式コミュニケーションを男女別に紹介し、この対面式がどのように機能するのか紹介します。
男性のコミュニケーションの方法
男性が主にコミュニケーションを取る場所は、安くて、日常的にも伝統的にも親しまれているココヤシ酒を提供している酒場です。農業を午前中で終え、男たちはココヤシ酒を飲みに酒場に行きます。このココヤシ酒とは、ココナッツの樹木から出る樹液が自然発酵してできるお酒です。疲れた体に水分とカロリーを与えてくれます。ボンデイ社会では、慣習的に女性は自宅にいることが好まれますから、女性が酒場に来ることは稀です。ですので、酒場は男性の社交場と言えるでしょう。
ココヤシ酒場に集まる男性は、多くの場合携帯電話を持っていますが、中には料金不足のために電話を発信できない人もいます。スマートフォンを持っている人も中にはいますが、ごく稀です。そこで、コミュニケーションを取る場や情報取得場となるのが、村民男性が集まるココヤシ酒場となるわけです。酒場に行けば、男性間だけの秘密の話をすることができますし、村民のウワサ話も酒場で展開されます。対面式のコミュニケーションが主流となっていることになります。携帯電話やSNSでは、相手の反応が見えませんが、対面式の場合、相手の反応を見ながら話しの内容を楽しみ、真剣な話もできるのです。それは、日常的に相手を思いやる気遣いにも繋がっているようです。
男たちが集まる夕暮れ時のココヤシ酒の酒場
女性のコミュニケーション方法
一方、女性はどのように情報を得たり、コミュニケーションを取っているのでしょうか。ボンデイの女性も携帯電話を持っている人はいますが、自分から発信できない人の方がほとんどです。また、村内でスマートフォンを持っている女性を見かけたことはありません。ボンデイの女性は、男性と比べると経済的、社会的な進出に対して控えめな人たちがほとんどですので、女性から電話をかけることはほぼ不可能です。ですから、女性たちはかかってきた電話を逃すまいと、携帯電話を常に首からぶら下げています。
女性の情報取得及びコミュニケーションの場は、大別して2つあります。一つは常設市場です。常設市場は村の中心部に設置してあります。そこで商売するのは村の女性たちであり、毎日、朝7時半ころから夕方まで市場で過ごします。さらに、彼女たちは、ボンデイの儀礼を担う歌い手兼踊り手でもあるのです。買い物客もほとんどが村の女性です。彼女たちは、常日頃時間を共にし、対面してコミュニケーションを取っていることになります。2つ目は、冠婚葬祭の準備の場です。冠婚葬祭の際には、村の女性たちが総出で準備をするため、集まる機会は頻繁にあります。また、この冠婚葬祭のお知らせも対面式で行われ、冠婚葬祭主催家族の妻たちが各家庭を訪れて連絡しています。村の女性たちは、市場や儀礼の場など女性たちが集まる場で、日常的にお互い顔を見合わせて村の情報を得たり、コミュニケーションをとっているわけです。
この日常的な女性間の関係性によって、村内の家々の繋がりが保持されているとも言えそうです。
対面式コミュニケーショで気配り上手
ボンデイ社会では、コミュニケーション方法が性別で差異があると分かりましたが、入手した情報はどうなるのでしょうか。村の共有施設や村民に関する重要な情報は、夫婦間でも共有されますが、酒場で語られた男性の間だけの「ここだけの話」は男性内のみ、女性のみの集まりで語られた「ここだけの話」は女性内のみで共有されているように見受けられます。もちろん、話の内容によっては、一時的に面白おかしく誰にでも語られ、村内で楽しまれることもあります。
コミュニケーションに性差はありますが、どちらにしても対面式で会話し、肌で相手の気持ちを感じとることで、女性間の繋がり、男性間の繋がりが強化されているように思います。それ故、村内住民は近隣の状況を把握し、思いやりをもって相手に接することができる点は、対面式コミュニケーションの良さだと思います。
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