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公開シンポジウム「『宗教組織の経営』についての文化人類学的研究」実施
2016年12月03日
[日時]2016年12月3日(土)、13:00~18:00
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[会場]南山大学名古屋キャンパス B21教室
[プログラム]
13:00 挨拶:後藤明(南山大学)
13:05 趣旨説明:藏本龍介(南山大学)
13:25 岡部真由美(中京大学)
「聖性の創出からみる宗教組織の経営:タイ北部国境地域における仏法センターの設立・運営・拡大の過程に着目して」
14:05 清水貴夫(広島大学)
「西アフリカのイスラーム教育機関の経営:環境の変化と新たな展開」
14:55 田中鉄也(アジア太平洋無形文化遺産研究センター)
「寺院はいかに運営されるべきか:北インド・ハリヤーナー州におけるヒンドゥー寺院間の軋轢」
15:35 門田岳久(立教大学)
「聖地/巡礼地経営における擬似的宗教組織:日本の二つの事例比較」
16:30 コメント:住原則也(天理大学)
16:45 コメント:白波瀬達也(関西学院大学)
17:00-18:00 総合討論
[報告]
宗教組織はどのように「経営」されているのか。つまりいかなる目的をいかなる方法で達成しようとしているのか。そしてそのプロセスはどのように展開しているのか。本シンポジウムではこの問題について、タイの仏法センター、ブルキ ナファソのコーラン学校、インドのヒンドゥー寺院、日本の巡礼観光会社を事例として、人類学的なアプローチから分析する。つまり世界各地に存在している、 目的・構成員・規模・持続性などにおいて多種多様な宗教組織を、民族誌的に叙述する。こうした作業を通じて、これまで等閑視されてきたような宗教実践・現 象の一側面を浮き彫りにすることを目的とする。
<各報告・質疑応答の概要>
岡部氏は、仏教国タイにおける、仏教寺院ではない仏法センターという新しい 組織の成立・展開について分析した。仏法センターはタイの宗教制度上、「宗教 組織」とは位置づけられていない。それゆえに社会との関わり方や組織構造において、従来の仏教寺院とは異なる特徴をもっていることが紹介された。
清水氏は、ブルキナファソにおけるイスラーム教育を担う学校のあり方が、歴史的に変遷していく様子について分析した。そして宗教的な目的の実現と、組織を維持するという課題のせめぎ合いの中で、伝統的なクルアーン学校が都市に進出したり、あるいは近代教育システムに取り込まれながら存続を図っている様子が紹介された。
田中氏は、インドのヒンドゥー寺院を事例として、一つの寺院に二つの異なる女神が同居するという事態について分析した。この事例においては各女神を管理する運営母体が異なっており、それが寺院や女神の位置づけをめぐる齟齬として現れている。一方でそうした齟齬の解消も目指されており、その過程で新しい神話が創出される様子などが紹介された。
門田氏は、日本の佐渡と沖縄を事例として、巡礼地経営という問題について分析した。ある場所が巡礼地・聖地になっていく過程で、そこに携わる組織の形態や、諸組織の関係が再編されていく様子、さらには宗教と世俗という境界が新たに線引きされていく様子が紹介された。
総合討論においてはまず、住原氏より、①研究会の試みは人類学的、民族誌的な記述に重点を置くものであったが、はたしてそれだけでいいのか、②経営という分野に入る以上、必然的に経営学の従属的な立場になってしまうのではないか、 人類学が主体となった組織経営研究はどこにありうるのかという質問が提示され た。次に白波瀬氏より、①世俗化の議論を前提としているのか。宗教現象自体は 活性化も見られるが、その中心が既存の宗教組織の外にずれていっている、離れ ていくところに宗教組織の経営難がみられる、これが研究会の立脚点であるのか、 ②シンポジウムの全体設定に個別の事例が対応していないのでは、という質問が提示された。これらの質問を元に各報告者とコメンテーターの間で活発な議論が交わされた。
なお、今回のシンポジウムは講演録として2017年3月に刊行する予定である。
質疑応答の様子 | コメンテーター | 会場の様子 |