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公開講演会「天文学と人類学の融合―空とヒトをつなぐもの」
2016年02月28日
[日時]2016年2月28日(日)、13:30~18:00(13:00開場)
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[会場]南山大学名古屋キャンパスR棟R31教室
[共催]南山大学人類学研究所・国立天文台
[プログラム]
13:30-13:35 挨拶:後藤明(南山大学人類学研究所所長)
13:35-14:35 坂井正人( 山形大学教授・ナスカ研究センター副所長) 「古代アンデスの人びとは、天空に何を見たのか」
(休憩)
14:45-15:45 海部宣男( 国立天文台名誉教授・元ハワイ観測所長) 「アジアの人々が見た星空と宇宙観」
(休憩)
16:00-17:00 パネルディスカッション「天文学と人類学の融合」
司会:後藤明
パネラー:坂井正人、海部宣男、吉田二美(国立天文台国際連携室専門研究職員)
[趣旨]
人類の星や宇宙に対する関心は古い。人類が天体の位置や運行を都市建設や暦の作成に使っていた痕跡は古代遺跡に残されている。星や宇宙にまつわる神話・伝説・口頭伝承・謡に含まれる情報(ex.ハワイのチャント、古琉球やアイヌの歌謡etc.)も、民俗学・人類学の立場から盛んに研究されてきた。しかし、これらが天文学的見地から解釈される機会は少なかった。この講演会は、古代遺跡や口頭伝承・文字記録を人類学者と天文学者が共同で掘り起こし、人類の宇宙観形成のメカニズムの根源を探求するための第一歩である。
[報告]
人類学と天文学という一見無関係な分野であるように思われるだろう。しかし両分野は親和性の高い文理の分野なのである。たとえばコスモロジー(宇宙論、宇宙観)という概念は両分野のキーとなる用語である。この公開シンポジウムでは天文学と人類学の研究者が協力して、新しい知の形を模索する第1回目の試みである。
たとえば近年人類学では景観論が盛んに行われているが、そこに抜け落ちていた視点は「空」であった。人類の経験する景観には空(スカイスケープ)も含まれており、人類は太陽や月あるいは天体の動きで生業のサイクルを定め、あるいは信仰の対象として神格化していた。また逆に空から、あるいは天の神々から見える地上の景観は如何に?という視点も従来抜け落ちていた点である。 このシンポジウムでは天空の現象を扱ってきた天文学者と人類史に取り組んでいた人類学者・考古学者が新たな知の枠組みを求めて対話を始めるきっかけとすることが目的である。
最初の講演者は山形大学の坂井正人氏である。坂井氏はペルーのナスカ地上絵研究で国際的にも注目されている数々の新発見を行ってきた考古学者である。氏は古代アンデスの遺跡と天体との関係を概観する講演を行った。民族事例とインカ帝国からはじまり、時間を遡りながらチムー王国、パコパンパ神殿、ナスカなどについて太陽や天の川あるいはプレアデスとの関連を示唆する遺跡の紹介と、その解釈の問題点を提示した。
続いて国立天文台元台長の海部宣男氏が講演を行った。海部氏は通称スバル天文台(国立天文台ハワイ観測所)などの建造に携わり、近年まで国際天文学ユニットの会長を務めている国際的な天文学者である。海部氏は『万葉集』や『おもろさうし』などをはじめ日本や沖縄の古典文学に天文現象がどのように表現されているかを概説した。神話では太陽が重視されているにもかかわらず、日本の文学にはあまり登場しないのは、上層階級が天文知識を独占してったからであると推測した。
続いてコメンテーターの国立天文台国際連携室の吉田二美氏から、海部氏および後藤所員も関係した2009年世界天文年時の「アジアの星」プロジェクトなど、天文学と人文諸科学との連携事業の紹介があり、4人の登壇者が今後、天文学と人類学との連携を模索するために意見交換が行われた。
坂井正人氏 | 海部宣男氏 | 吉田二美氏を交えた討論会 |