研究活動 過去の活動報告
公開シンポジウム「古代アンデスにおける国家の成立と展開」
2013年02月19日
[日時]2013年2月19日(金)13:30~17:30
[会場]南山大学名古屋キャンパスR棟31教室
[講師]ルイス・ハイメ(ペルー・カトリック大学教授)、ウィリアム・イズベル(ニューヨーク州立大学教授)、ジュリーノ・サパタ(サンアントニオ・アバド大学教授)、通訳:松本 雄一(国立民族学博物館機関研究員)
[主催]南山大学人文学部
[共催]国立民族学博物館・科学研究費補助金基盤研究(S)「権力の生成と変 容から見たアンデス文明史の再構築」 (代表 関 雄二) 南山大学人類学研究所
[趣旨]
南米古代アンデスの古代国家についての講演会である。講演者はいず れも世界的に知られた研究者であり、最新の研究成果を踏まえ解説する。
[プログラム]
1400-1500 Luis Jaime Castillo (ルイス・ハイメ・カスティーヨ)(ペルー・ カトリック大学教授)
「1000 Years of Female Power in the North Coast of Peru (ペルー北海岸における女性の権力の 1000 年)」
1500-1600 William H. Isbell (ウィリアム・イズベル)(ニューヨーク州立大 ビンガムトン校教授)
「Wari and Tiwanaku: Key Cultural Process in the Ayacucho Valley of Peru(ワリとティワナク:ペルー、 アヤクーチョ谷における鍵となる文化プロセス」
1600-1700 Julinho Zapata (ジュリーノ・サパタ)(ペルー・サン・アントニオ・ アバド大学教授)
「Nuevos Canones de la Arquitectura Inca:Paisaje Y Arquitectura en Tambokancha--Tumibamba(インカ建築 の新規範:タンボカンチャ=トゥミバンバにおける景観と 建築」
1700-1800 質疑応答
[報告]
ルイス・ハイメ教授は、ペルー北海岸に、モチェ文化(後1-8世紀)の末期に女性の権力者の墓が現れることに注目し、とくに自身が20年以上に亘り発掘調査を継続している、サン・ホセ・デ・モロ遺跡のデータを中心に解説した。古代アンデスでは一般に王は男性であり、特に先スペイン期最後に台頭したインカ帝国は、男性中心社会であったため、女性の役割についてはこれまであまり知られていなかった。女性の支配者が現れるペルー北海岸をどのように位置づけるかは、アンデス文明全体関わる重要な問題であり、今後の調査、研究の進展が期待される。
ウィリアム・イズベル教授は後6?10世紀に台頭した2つの国、ワリとティワナクについて最新の知見を踏まえ講演された。主にワリ帝国の次の4つの変化について解説された。(1)在地の文化を母胎としてワリ様式土器が発展した、(2)その後ボリビアのティワナク文化と共通する図像を取り入れた、(3)ワリ様式の誕生と平行して遺跡の分布パターン、建築様式が変化した、(4)規格性の高い建築が生み出され、地方行政センターが設置された。ワリはインカの祖型と見なされる帝国であり、その時代はアンデスの文化発展のプロセスを考える上で鍵となる時代であるが、最近少しずつその実態が明らかになりつつある。
ジュリーノ・サパタ教授は、先スペイン期最後のインカ帝国について建築に焦点を当てて講演された。マチュピチュなど世界的に知られたインカの遺跡は多い。しかしそれらは全て地表から観察できる遺跡であり、実は地表下に眠っている遺跡もある。発掘によってその存在を突き止めたタンボカンチャ遺跡は、従来知られていたインカ建築の規範には当てはまらない驚くべき特徴を備えていた。まず壁の多くは上部が土壁であり、そのため土が溶け、遺跡を覆い、地表には土器などの遺物が一切確認できなかった。また主要建築物はトゥミと呼ばれる儀礼用ナイフの形を模して配置されており、その端が冬至・夏至の太陽の昇る方向に合わせて作られていた。また入口の大きさから判断すると、いくつかの建物は高さ10m以上もあったと考えられる。また周りの山の配置を見ると、首都クスコの配置と線対称になっていることも判明した。非常に綿密に設計された遺跡であった。
古代アンデスにおける代表的な国家についての講演後、それぞれの発表者に多くの質問が寄せられた。また今回、松本雄一氏に同時通訳をお願いし、学外への宣伝へも行った。その結果、平日ながら一般参加者も多く参加した。
講演するルイス・ハイメ氏 |
講演するウィリアム・イズベル氏 |
講演するジュリーノ・サパタ氏 |