研究活動 活動報告
[共同研究]定着/非定着の人類学―「ホーム」とは何か(代表:藤川 美代子)
2019年01月14日
人類学研究所共同研究「定着/非定着の人類学―『ホーム』とは何か」(2016~2018年度)
[代表]藤川美代子(人類学研究所 第一種研究所員)
考古学者は長い間、「定住」の開始こそが人類を文明へと向かわせた最大の根拠であると理解してきた。
翻って、現代とはどのような時代だろうか。20世紀以降、人類の移動の範囲は日に日に拡大し、「グローバル化の只中にあって、国境を越えた移動さえも、もはや万人にとって日常的なものとなりつつある」との言説自体が、陳腐な響きを伴ってあふれ返るようになった。いわゆる現代人は、金銭(希望)の獲得や危険(絶望)からの脱却を求めて、あるいはやむにやまれぬ事情で、文明の利器であるところの様々な交通手段を用い、自分の村から隣町へ、町から都市へ、都市から他国へと、駆り立てられるように移動する。より日常的には、自宅から学校や仕事場へと、移動をくり返してもいる。その姿は、森や草原、海で、食料と安全を確保するために移動する「原始的な遊動民」(非定住民)たちと、私たち現代人の間に、果たして境界など存在するのだろうかと問いかける。
「根なし」の状態の常態化の一方で、個人的な経験(進学・転勤・出稼ぎ・結婚・病気・介護・借金からの逃亡・観光etc.)や、社会的な経験(不況・自然災害・原発事故・紛争・定住化政策etc.)を契機として、望むと望まざるとにかかわらず展開される移動という現象の背後には、ある特定の土地・場所・空間に根を張ることに対する人々の強烈な意識(憧憬・憎悪)が存在することもまた、事実だろう。言い換えれば、人は移動しながら(あるいは、断固として移動を拒否しながら)、常に自らの居場所である「ホーム」を求めているということに他ならない。
この共同研究では、生活様式としての「定住/遊動・移動・放浪」と、居所選択をめぐる「定住/移住」、日常的に反復される「帰着/移動」、一過性の「停留/移動・旅」などを区別することなく、広義に「定着/非定着」と捉え、そのはざまにある人々の生き方に注目することで、人にとってホームとはいかなる場であり、ホームを求めるとはいかなる実践であるのかを考える。仮に、①ホームに留まる、②ホームを離れる、③ホームへ還る、④ホームを失う、⑤ホームを創るという5本の柱を立て、具体的な事例を出発点に考察を深めることとする。
2016年度
▶第1回研究会
日時:2016年7月20日(水)
発表:藤川美代子(南山大学)「定着/非定着の人類学:『ホーム』とは何か」
▶第2回研究会
日時:2016年12月7日(水)
発表:藤川美代子(南山大学)「定着/非定着の人類学:『ホーム』とは何か」(理論的視座の再考)
▶第3回研究会
日時:2017年1月13日(金)
発表①:後藤明(南山大学)「オセアニアにおけるカヌー文化復興―『ホーム』を求める動き?」
発表②:髙村美也子(名古屋大学)「アフリカ人の『帰るところ』ホームとは」
2017年度
▶第1回研究会
日時:2017年8月3日(木)
発表:吉田竹也(南山大学)「安らかならぬ楽園のいまを生きる:バリ島ウブドの日本人のゆらぐホーム」
▶第2回研究会
日時:2018年2月28日(水)
発表①:後藤明(南山大学)「『移動』を展示する博物館・海洋文化館をめぐる様々な『組織』」(*共同研究「非営利組織の経営に関する文化人類学的研究」との横断研究発表)
発表②:髙村美也子(南山大学人類学研究所)「農村社会の埋葬地―タンザニア・ボンデイ社会の被埋葬地の選択」
2018年度
▶第1回研究会
日時:2018年7月6日(金)
発表①:野澤暁子(ミシガン大学/名古屋大学/南山大学人類学研究所)「神聖音楽祭の成立と展開:〈ホーム〉をめぐる音楽的プラクシスの諸相」
発表②:渡部森哉(南山大学)「定住に関する一考察」
▶第2回研究会
日時:2018年10月22日(月)
発表①:菅沼文乃(南山大学人類学研究所)「宮古島出身老年者の故郷観について」
発表②:濱田琢司(南山大学)「移動する職人─福岡県小石原の「廻り職人」を中心に─」
▶第3回研究会
日時:2019年1月14日(月)
発表①:ドーマン・ベンジャミン(南山大学人類学研究所)「オートエスノグラフィーと自閉症療育ーコミュニティの構築とボランティア募集活動」
発表②:ポール・カポビアンコ(アイオア大学/九州産業大学/南山大学人類学研究所)「日本の将来:移民、小さな国際化、アイデンティティについて」