研究活動 活動報告
第1回公開シンポジウム「博物館活動におけるソースコミュニティとの協働の可能性と課題」実施
2018年07月14日
[日時]2018年7月14日(土)、13:30~16:50(開場13:00)
[会場]南山大学Q棟 Q103教室
[主催]南山大学人類学研究所
[共催]科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化))「日本国内の民族学博物館資料を用いた知の共有と継承に関する文化人類学的研究(国際共同研究強化)」(15KK0069、研究代表者:伊藤敦規)
[趣旨]
民族学博物館は、世界の民族集団の生活や文化に関する民族誌資料の収集、保存・管理、研究、展示、ならびにアウトリーチ活動等を通して、来館者に異文化の理解を促進することを主目的として活動を行ってきた。展示や研究の対象であり、資料の出所(ソース)という意味での当事者である世界の民族集団は、かつての社会進化論や植民地主義的な思考に根ざした生体展示や、展示会の開幕式などへの招待を除けば、彼ら自身が異文化を理解するために博物館を訪れる来館者として設定されることはほとんどなかった。ところが、植民地主義批判や先住民運動などが活発化する二〇世紀後半以降、世界の様々な地域の民族学博物館を舞台として、博物館や研究者による一方向的な活動方針や実施に対して異議が唱えられる機会が増してきた。特に一九九〇年代から二〇〇〇年代以降になると、一つの流れとして、民族学博物館が行う様々な活動にはソースコミュニティ(収集・展示・研究の対象となる人々で、資料の制作者、使用者、その子孫からなる人々)の意見を尊重し、彼らの見解に耳を傾け、彼らと共に展示会や研究といった博物館活動を企画・運営・実施する気運が高まってきた。
本シンポジウムの発表者の多くは、自身が所属する博物館や研究機関などにソースコミュニティの人々を招聘し、資料情報の加筆調査や、展示資料の修復、展示会や催事の企画と運営などを実施した経験を持つ。本シンポジウムでは、複数の博物館で実施したソースコミュニティと研究者との協働の具体事例を挙げながら、博物館活動における両者の連携の可能性を探ると共に、現状として抱えている課題も明らかにして今後の展望を探る。
[プログラム]
1330-1335 挨拶:渡部 森哉 (南山大学人類学研究所)
1335-1345 趣旨説明:伊藤 敦規 (国立民族学博物館)
1345-1415 川浦 佐知子 (南山大学人類学研究所)
「国立アメリカインディアン博物館、Nation to Nation展における協働のかたち」
1415-1445 梅谷 昭範 (天理大学附属天理参考館)
「天理参考館が所蔵する北米先住民資料の沿革と活用」
1445-1515 宮里 孝生 (野外民族博物館リトルワールド)
「リトルワールドにおけるソースコミュニティ招聘と資料修復」
1515-1545 山崎 幸治 (北海道大学 アイヌ・先住民研究センター)
「博物館活動におけるアイヌ民族との協働」
1545-1600 休憩
1600-1620 コメント:伊藤 敦規(国立民族学博物館)
1620-1650 総合討論
[報告]
日本と米国の五つの民族学博物館をとりあげ、さまざまな博物館活動(収集(映像収集含む)、整理・分類、保存・管理、修復、研究、展示、映像資料の上映やデータベース構築といったアウトリーチ活動など)に注目しながら、研究者とソースコミュニティとの協働の在り方の事例を共有した。その結果、両者の協働の可能性として、例えば、物質的には延命措置が施され続けるものの文化的な生命力が減退する民族誌資料の蘇生が可能であること、これまでに注目されることのなかった民族誌資料や伝統知への配慮を可視化することで多文化共生や異文化理解を深めることが可能なことなどが明らかになった。
一方で課題としては、両者の協働は短期的ではなく長期的かつ継続性のある交流事業として制度設計されることがより望ましいこと、そのための予算措置が必要なこと、博物館職員間での理解の促進や事業継承の円滑さなども不可欠なことが明らかになった。翻って、民族学博物館の活動には終わりはなく、両者の協働が博物館の既存の制度や運用のやり方に再考を迫るインパクトであり続けることこそが重要であると改めて気づかされた。さらに、そうした一連の働きかけについて特にソースコミュニティ側の視点に立って諸活動を記録することが、博物館を舞台とした協働民族誌の執筆に他ならないことも明らかになった。
また、今回のシンポジウムでは、ソースコミュニティという用語の定義を再考することができた。すなわちソースコミュニティとは単に資料の制作者・使用者・その子孫を示すのではなく、もちろん一枚岩的ではないものの、民族誌に記述された伝統知をもつ・もっていた人々でもあり、かつ、博物館が収蔵する民族誌資料に付された情報の検証や伝統知の再興を自らの判断で行うことができる人々、といえるのである。
川浦 佐知子氏 | 梅谷 昭範氏 | |
宮里 孝生氏 | 山崎 幸治氏 | 総合討論を司会する伊藤 敦規氏 |