研究活動 活動報告
第2回公開シンポジウム「日本と韓国の人類学ネットワーク」実施
2018年11月18日
[日時]2018年11月18日(日)、13:30~17:30
農村での共同作業の際の食事(1989~90年農村調査) |
村に定着した父系士族の分派始祖の墓での祭祀(同上) |
農村移住者に人気のある地域(2018年8月) 写真はすべて本田洋氏提供。無断転載を禁止いたします |
[会場]南山大学R棟・R65教室
[主催]南山大学人類学研究所
[プログラム]
講演①「1980年代以降の韓国における文化人類学的日本研究の形成と展開」林慶澤(全北大学校日本学科)
講演②「1970年代以降の日本の人類学における韓国社会研究」本田洋(東京大学)
コメント①:宮沢千尋(南山大学)
コメント②:ベンジャミン・ドーマン(南山大学人類学研究所)
司会:渡部森哉(南山大学人類学研究所)
[要旨]
◎「1980年代以降の韓国における文化人類学的日本研究の形成と展開」林慶澤(全北大学校日本学科)
1980年代以降になると、韓国の人類学においても異文化を研究しようとする傾向が現れてきた。この時代から外交や経済的な理由から、他社会に対する具体的な知識の蓄積が必要だという社会的要求ができたからである。なお、この時期に韓国の人類学者が相対的に大きな比重を占めたのは日本であった。そうして、1980年代から長期間にわたるフィールドワークを行い、日本に関する民族誌を書く韓国人の人類学者が登場し始めた。これらは、分科学問と地域研究の接点で行われた専門的な研究成果であった。
本発表では、1980年代から現在までを対象にし、研究を行った研究者の類型と研究傾向を分析し、さらに彼ら(彼女ら)が置かれていた制度的環境との関連を含めて把握しようとしている。そして、文化人類学者による「韓国的」日本研究の性格やこれからの方向性などについて考えてみることにする。はたして、西欧人類学と日本人類額と区別できる「韓国人類学」の独自性はあるのだろうか。
◎「1970年代以降の日本の人類学における韓国社会研究」本田洋(東京大学)
朝鮮半島中・南部,今日の韓国に暮らす人たちを対象とする人類学的研究は,その起源の一部を日本による植民地統治期にたどることができるが,日本の研究者によって長期のフィールドワークに基づく本格的な民族誌研究が開始されたのは,第2次世界大戦後の20余年に及ぶ断絶を経た1970年代初頭のことであった。その特徴として,隣国という地の利を生かした緻密な民族誌,現地の研究者との密接な交流,「近さ」(社会文化的伝統の緩やかな共有,農村への郷愁,人の相互移動と多様な交流)と「遠さ」(異文化,社会経済的構造の相違,歴史的葛藤)の独特な交錯を挙げることができる。他方で,今日に至る40年あまりのあいだに決して少なくない数の研究者たちによって,多様な現場で,多様な視角からの調査研究が積み重ねられてきたのも事実である。本報告では,農村社会研究に対する立ち位置,ならびに変化と持続性(あるいは民族誌的現在)を捉える視角を参照軸として,私自身の研究者としての諸経験に準拠しつつ,日本の人類学における韓国社会研究の素描と展望を試みたい。
[報告]
日本(東京大学)で博士号を取得された林慶澤氏と、韓国で長年フィールドワークを実施されている本田洋氏が、それぞれの立場から互いの国で展開される人類学的研究の特徴と日韓の人類学者のネットワーク構築に関してご講演くださっ た。林氏は、研究者が自己・自国アイデンティティの模索に邁進した時期を経て、韓国で1980年代以降に増え始めた日本を対象とした人類学の研究について、 博士の学位を取得された研究者の年代記を示しながら、日本留学型、西欧留学型、プロジェクト型(交流型)、国内型といったカテゴリーに分け、世代ごとの違いや特徴について分析された。本田氏は、1970年代以降、日本人および日本育ちの研究者が韓国社会を対象に行ってきた人類学的研究について、農村社会研究が主流だった時代から歴史人類学・歴史民族誌への移行、そして研究テーマの多様な広がりをみせる現在の民族誌的研究までを解説された。
これらの発表に対し、コメンテーターの宮沢千尋氏は、自身のフィールドであるベトナム研究と韓国研究とのつながりに触れながら論点を整理された。ドーマン氏は、南山大学人類学研究所編集の『Asian Ethnology』上に掲載されたことのある韓国研究および日本研究に関する論文について解説された。フロアとの質疑応答では、人類学の近接分野である民俗学の分野で日本と韓国の交流はいかに展開されているのかといった質問や、法学者の立場から韓国の家族法について調べた際に人類学の韓国研究を大いに参照したとのコメントが出された。
林慶澤氏 | 本田洋氏 | |
コメンテーターと司会 | 総合討論 | 会場の様子 |