研究活動 活動報告
(共催)「誰にとっての「復興」か?ー住する・寓するの社会倫理ー」
2019年06月29日
社会倫理研究所2019年度第1回懇話会(シリーズ懇話会「3.11以後何が問われているのか」)
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[日時]2019年6月29日(土)、14:00~17:30(13:30開場)
[会場]南山大学Q棟 5階会議室
[主催]社会倫理研究所
[共催]人類学研究所
*どなたでも参加は自由(無料)で、当日参加も可能ですが、 事前に受付フォームよりご連絡いただけると幸いです。
[プログラム]
●演題1
秦範子(都留文科大学・非常勤講師)「被災地の復興計画と持続可能な地域づくり」
●演題2
松尾隆佑(法政大学・兼任講師)「複数のまちに住むこと、あるいは遠くからの自治」
●司会・コーディネータ
三好千春(社会倫理研究所・第二種研究所員/人文学部・教授)
森山花鈴(社会倫理研究所・第一種研究所員/法学部・准教授)
●コメンテータ
藤川美代子(人類学研究所・第二種研究所員/人文学部・准教授)
[内容]
社会倫理研究所では、2011年から2014年にかけてシリーズ懇話会「3.11以後何が問われているのか」を実施してきた。東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故から8年を経た今、復興について改めて考えてみたい。
被災地支援や住民支援の際には、「復興」という言葉が必ず出てくるが、それは誰にとっての復興なのだろうか。世の中には改元やオリンピックに浮かれ、すでに復興しているかのような風潮があるが、被災地で不安定な状況の中で暮らしている人もいれば、いまだ避難生活を余儀なくされている人もいる。
本懇話会では、地域に生きる・住まうことについて、震災後の状況を踏まえ、私たちにとっての「復興」とは何を意味するのかを、持続可能な地域づくりの観点から被災地の現場で活動をしてきた秦範子先生、そして政治理論の観点からステークホルダーデモクラシーに基づき二重の住民登録の問題を検討してきた松尾隆佑先生をお招きして参加者の皆さんとともに議論する。
[報告]
東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生以降、被災地の復興と防災(減災)を実現すべくさまざまな対策が練られてきた。だが、復興・防災とはそもそも、「誰」にとっての、「どのような」状態を指すのか、民主主義を標榜する日本という社会にあって、復興・防災の理想像には「誰」の声が反映されるべきなのかといった問題に、私たちは果たしてうまく向き合ってきただろうか。
環境教育学・社会教育学を専門とする秦範子氏は、長期にわたる自身のフィールドワークに基づき、持続可能な復興・防災がより生活に密着した形の小規模な地域コミュニティ(ここでは、かつての集落レベルを想定)で模索され、施策に活かされることになった事例を紹介した。たとえば、気仙沼市大谷地区では、海岸線に計画された巨大な防潮堤建設を黙って受け入れるのではなく、里海としての海や岸との望ましい向き合い方を話し合うというプロセスを経て、防潮堤を計画案よりも陸地側に後退させ国道との兼用道とする要望を出し、国交省・林野庁・県の承認を受けるに至っている。しかし、全体として見れば、そうして声を上げる住民と復旧事業の管理者たる国・県との調整役を担うべきは誰なのかといった実際的な課題も多く残されているのが現状だという。
松尾隆佑氏は政治学の立場から原発事故の避難者の事例を扱い、遠隔地での避難をつづけながら避難元(被災前の生活の場)の復興の主体として各種の意思決定プロセスに与するとの人間の尊厳と権利に大きく関わる問題が、現在の日本では制度的として保障され得ないという現状について論じた。民主主義を集合的自己決定と理解するならば、自らにとって重大な決定をもたらし得る政治的共同体(国家・自治体)が複数ある場合、どの決定過程にも参画する権利をもつべきと見なし、個人に多重的シティズンシップを認めることもできよう。しかし、国は参政権と納税の二重化を防ぐことを理由に、住民が声を上げるための装置を現住所に基づく住民登録のみに一本化するという姿勢を崩してはいない。
コメンテータの藤川美代子は、中国南部の船上生活者が経験した陸上定住化に触れながら、日本で進められる防災・減災政策との間に共通した論理が見られると指摘した。それは、科学知によるリスクの予見・管理・制御を人間の行動の基盤とすべしとの「リスク社会化」(ウルリッヒ・ベック1998)、そして国家は最大公約数の幸福を実現するために国民の庇護に努めねばならぬ(これは、庇護を求める国民は国家に従わねばならぬと同義)とする国家像が前提されている点である。さらにそこに為政者の「別様の空間での別様の生き方に対する想像力の欠如」が加わることで、望ましい復興・防災・減災をめぐって現場と事業管理者たる国との間に根本的なズレが生じる可能性があるという。
これらの報告・コメントを受けて、最後はフロアと報告者との間で活発な議論が交わされた。
全体の様子 | コメンテーターの藤川氏 |