研究活動 活動報告
[共同研究]デジタル化が⽣み出す新たな⽣/知のあり⽅―記録・⾝体・モノ―
2024年03月16日
人類学研究所共同研究「デジタル化が⽣み出す新たな⽣/知のあり⽅―記録・⾝体・モノ―」(2022~2024年度)
[代表]加藤英明・菅沼⽂乃・⾼村美也⼦(以上、人類学研究所・プロジェクト研究員)
[とりまとめ]⽯原美奈⼦(人類学研究所・第二種研究所員)
近年、インターネット、バーチャル、ソーシャルメディア、ビッグデータ、⼈⼯知能など、さまざまなデジタル機器やサービスが、私たちの社会に浸透し、デジタル技術は私たちにとってもはやなくてはならない存在となっている。デジタル技術の発達により、ヒト・モノ・コトが情報ネットワークを通じてつながることができるようになり、デジタル化は知のあり⽅、社会のあり⽅、⽣のあり⽅に新たな様相をもたらしている。
アカデミアの世界においても、デジタル技術の活⽤は進んでおり(⾦明ほか編 2019)、フィールドワークは、フィールドノートに⾛り書きをしたり⼿書きでスケッチ描写をしたり、あるいは⾳声をカセットテープに録⾳したり、現地での様⼦を8ミリフィルムに録画したりするというやり⽅は過去のものとなりつつある。近年はフィールドでデジタル機器を活⽤することが⼀般的になってきているだけでなく、情報収集や成果の発表すらデジタル機器を⽤いるのが⼀般的となっている。⼈類学では、そのようなデジタル化の動きに呼応し「デジタル⼈類学」の領域が開かれ、各地域の⼈びとの⽣活との関連が報告されている
(Horst and Miller 2012, Pink et al., 2016a, Pink et al., 2016b)。考古学においても、デジタル機器の活⽤が⽬覚ましく、実測図や拓本に代わる記録・図化の⽅法が取り組まれ、さらにはデータの維持・記録・保管・共有への活⽤も模索されている(e.g. 中園 2017, 野⼝・藤森 2021)。以上のように、デジタル機器の学術的利⽤は進展し、デジタル化をめぐり、近年の⼈類学と考古学において活発な研究動向を確認できるが、双⽅の対話は乏しく⼗分に議論されているとは⾔いがたい状況にある。
そのような状況を踏まえて、本共同研究では、⼈類学と考古学の知⾒や事例を通して、デジタル化をめぐる議論を深め、デジタル技術が⽣み出す新たな⽣と知のあり⽅について考察を⾏なうことを⽬的とする。
具体的には、記録、⾝体、モノの 3 つの観点から課題に取り組む。
第⼀に、モノや⾔語、⾝体、空間などが、デジタル機器により情報として記録される点に焦点をあて、いかに記録をめぐり⼈が関わり、その実践が変化しているのかを明らかにする。研究者がフィールドで出会う⼈々の⽣活もデジタル機器の普及によって⼤きく変化している。研究者が⼀⽅的にフィールドでの経験を記録・分析するのではなく、現地の⼈々⾃⾝も独⾃の関⼼に従って記録と情報発信を⾏い、さまざまな分野にわたる双⽅向的なネット空間が創出されている。そうしたデジタル化された情報の記録・発信・活⽤と分析という⾏為によって、⼈々の⽣活や研究のあり⽅がどのような影響を受け、どのように変化しているのかを考察する。
第⼆に、デジタル機器の使⽤に伴い、⾝体感覚や⾝体技法がどのような変化を被っているのか、について考察を⾏なう。⼀⽇のなかでスマホやパソコンに向き合う時間が増えたのは、何も先進国に限ったことではなく世界的な現象となっており、コロナ禍の影響下でますますデジタル機器に依存する⽣活となっている。そうしたなかで、⾝体感覚を伴う、⾝体技法が重要な位置を占める活動にどのような変化が起きているのかについて考察する。
第三に、デジタル化とモノとの関係を考える。デジタル機器・サービスが社会に浸透しているとはいえ、情報を中⼼とした⾮物質的な世界に覆われるわけではなく、多種多様なモノとの関係のなかでデジタル化は成り⽴っている。例えば、SNS の普及は情報の交換ツールとして機能するが、対⾯による会話、紙とペンによる情報交換が消失するわけではなく新旧のモノが混在し成り⽴っている。また、考古学や博物館では、3D スキャン・プリンタなどが、学習・研究促進を⽬的とした資料のレプリカ作成に活⽤される事例もあり、資料をめぐる新たな⼈とモノの役割を⽣み出している。このように従来のモノと⼈の関係が、デジタル化をとおしてどのように変化しているのかについても考察する。
以上の 3 つの観点を踏まえて、デジタル化との関連をとおして、記録やモノ、⾝体との関係を捉え直し、新たな技術に対して⼈類学と考古学の双⽅においていかなる展望が描けるのかについて議論する。
参照⽂献
Horst, Heather and Daniel Miller(eds.)
2012 Digital Anthropology. London. Bloomsbury Academic.
Pink, Sarah, Elisenda Ardevol and Débora Lanzeni(eds.)
2016 Digital Materialities: Design and Anthropology. London: Bloomsbury.
Pink, Sarah, Heather Horst, John Postill, Larissa Hjorth, Tania Lewis and Jo Tacchi(eds.)
2016 Digital Ethnography: Principles and Practice. London: Sage.
⼩川さやか
2019 「SNS で紡がれる集合的なオートエスノグラフィ―̶⾹港のタンザニア⼈を事例として」『⽂化⼈類学』84(2): 172-190。
⽊村忠正
2018 『ハイブリッド・エスノグラフィー―̶NC 研究の質的⽅法と実践』新曜社。
⾦明哲ほか編
2019 『⽂化情報学事典』勉誠出版。
藤野陽平・奈良雅史・近藤祉秋編
2021 『モノとメディアの⼈類学』ナカニシヤ出版。
中園聡
2017 「三次元考古学の新地平 (特集 3D 技術と考古学)」『季刊考古学 』140: 14-17。
野⼝淳・藤森英⼆
2021 「栃原岩陰遺跡出⼟資料の 3D 計測とデジタルアーカイブ化―̶縄⽂時代早期深鉢形⼟器と⾻⾓器を対象とした試⾏」『北相⽊村考古博物館研究紀要』2: 17-28。
2022年度
▶第1回研究会
日時:2022年7月3日(月) 15:00~17:00
会場:Zoom
趣旨説明:石原美奈子(南山大学)
共同研究に関する研究動向:
発表①:加藤英明(南山大学)「デジタル人類学に関する研究動向」
発表②:菅沼文乃(南山大学)「デジタル技術と生活との関連に関する研究動向:とくにデジタル活用の実態に関する日本社会を対象とした研究動向」
発表③:髙村美也子(南山大学)「無文字言語のデジタル化は可能か:SNSの役割」
アイディア発表:全員
今後の運営について:全員
●第1回読書会
・日時:10月8日(土) 13:00~17:00(Zoom)
・課題図書:Geismar, Haidy & Hannah Knox (eds.) 2021 Digital Anthropology, 2nd. London: Routledge.
・発表者:加藤英明(南山大学) 第2章 Six principles for a digital anthropology
高村美也子(南山大学) 第1章 Introduction 2.0
石原美奈子(南山大学) 第5章 The anthropology of social media
▶第2回研究会
日時:2022年10月22日(土) 10:00~12:00
会場:Zoom
発表①:渡部森哉(南山大学)「インカ研究に関する記録文書について」
発表②:石原美奈子(南山大学)「地方史の再構築に向けて―エチオピア・オロミア州ジンマ県/市での取り組みとその社会的意義ー」
●第2回読書会
・日時:12月10日(土) 13:00~17:00(Zoom)
・課題図書:Geismar, Haidy & Hannah Knox (eds.) 2021 Digital Anthropology, 2nd. London: Routledge.
・発表者:高村美也子(南山大学) 第4章 The anthropology of mobile phones
石原美奈子(南山大学) 第9章 Digital politics
加藤英明(南山大学) 第10章 Traversing the infrastructures of digital life
▶第3回研究会
日時:2023年3月18日(土) 15:00~17:00
会場:Zoom
発表①:吉田竹也(南山大学)「デジタル社会の反フロンティアー宇宙観光を事例に現代観光を考察するー」
発表②:吉田佳世(追手門学院大学)「沖縄に寄り添う楽器ー三線の県外普及におけるデジタル化とアナログ化」
●第3回読書会
・日時:3月25日(土) 13:00~17:00
・課題図書:Geismar, Haidy & Hannah Knox (eds.) 2021 Digital Anthropology, 2nd. London: Routledge.
・発表者:野澤暁子(南山大学) 第7章 Disability in the digital age
菅沼文乃(南山大学) 第15章 The role of the digital anthropologist in citizen science and
public participation mapping projects
2023年度
▶第1回研究会
日時:2023年10月29日(日) 14:00~16:00
会場:南山大学人類学研究所1階会議室・オンライン(Zoom)
発表①:加藤英明(南山大学)「NC工作機械をめぐる町工場の人びとの技法とネットワーク」
発表②:野澤暁子(名古屋大学)「バリ島の儀礼歌の伝承状況:儀礼実践とオンライン動画との比較から」
▶第2回研究会
日時:2023年12月2日(土) 13:00~15:00
会場:南山大学人類学研究所1階会議室・オンライン(Zoom)
発表①:髙村美也子(南山大学)「東アフリカにおけるモバイルマネーの実践」
発表②:後藤明(南山大学)「レーザーを用いた遺跡測量技術LiDAR法の現状:ミクロネシア・ナンマトル遺跡と佐賀県吉野ヶ里遺跡の事例から」
▶第3回研究会
日時:2024年3月16日(土) 13:00~15:00
会場:南山大学人類学研究所2階会議室・オンライン(Zoom)
発表①:菅沼文乃(南山大学)「沖縄県中山間地域における高齢者みまもりとデジタル技術の活用について」
発表②:平田晶子(東洋大学)「多様な「働く女性」や共働き世帯を支える育児IoT空間デザインをめぐる人類学的研究」