研究活動 活動報告
第3回公開シンポジウム「王崧興『亀山島』と漢人社会研究」
2023年12月26日
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第3回公開シンポジウム「王崧興『亀山島』と漢人社会研究」
日 時:2023年12月26日(火)、10:00~12:45
会 場:南山大学G棟G27教室
主 催:南山大学人類学究所
共 催:東アジア人類学研究会
講演者:川瀬 由高(江戸川大学)、呉 松旆(関西学院大学)、稲澤 努(尚絅学院大学)、
藤川 美代子(南山大学)、長沼 さやか(静岡大学)
使用言語:日本語
プログラム:
10:00 開会の辞 渡部 森哉(南山大学人類学研究所)
第一部『亀山島』を読む
10:05 川瀬 由高(江戸川大学) 「趣旨説明:あらためて『亀山島』を読むために」
10:10 呉 松旆(関西学院大学) 「台湾の人類学と「自文化」研究」
10:20 稲澤 努(尚絅学院大学) 「亀山島と「漢人らしさ」研究」
10:30 藤川 美代子(南山大学) 「女性の仕事と島の外に広がる世界」
10:40 長沼 さやか(静岡大学) 「複雑で名づけすら困難な人間関係」
10:50 川瀬 由高 「『亀山島』と「関係あり、組織なし」」
(休憩)
第二部 コメント
11:15 太田 出(京都大学)
11:30 長津 一史(東洋大学)
11:45 上水流 久彦(県立広島大学)
12:00 リプライ&質疑応答
趣 旨:
2024年5月、『王崧興『亀山島』と漢人社会研究(仮)』を風響社から刊行します。本書は、台湾・香港・日本で教鞭をとられた王崧興先生の名著『亀山島』(中央研究院民族学研究所、1967年)の全訳に加え、その解題論文を収録した編訳書です。
『亀山島』は台湾東北部の外海に位置する亀山島の、島内に一つしかない小さな漁村を舞台とした人類学的な調査の報告書であり、歴史・漁具・漁法などについて詳細に描かれるほか、漁村ならではの漁船経営のあり方、家族・親族を含む社会関係のあり方、祭祀の方法などが論じられています。また、この書は、専門的な訓練を受けた台湾本土出身の人類学者が初めて、自らと同じ漢人に属するコミュニティについて描いた民族誌であり、台湾の人類学史においても重要な位置を占めるものです。
今回の編訳に取り組んだのは、中国大陸を対象としてきた研究者と、アイヌ社会を対象としてきた台湾出身の研究者であり、本書の全訳および解題論文は、非台湾研究者による『亀山島』読解の試みだと言えます。その意味で本書は、研究テーマと研究地域の細分化の結果として生じていた研究領域の境界を横断する試みであると同時に、また現代的関心から古典を捉えなおすことで、東アジアの人類学的研究の活性化に寄与することを目指したものです。
そこで、本書の翻訳と解題論文を執筆した5名の研究者が『亀山島』から何を読み取ろうとしたのかを論じるとともに、3名の先生方をコメンテーターに招き、『亀山島』の広がりと奥行き、そして古典的民族誌再読の意義について討論するシンポジウムを開催します。
報 告:
当日は、生前の王崧興氏と親交のあった方々や若手の研究者など、多くの来場者があった。報告者による発表につづき、コメンテータ各位からは次のような問題提起があった。
太田出氏は、歴史学の立場から文献資料とフィールドワークに取り組むことで中国江南地方の漁民社会を研究されてこられた。太田氏からは『亀山島』の編訳者たちに対して、今後は海洋学・水産学・環境学・国際政治・歴史学・社会学などとの連携を図ることで、新たな亀山島研究、もしくは台湾離島研究へと展開する可能性があるとのコメントがあった。また、王氏も編訳者も触れなかった点として、『台湾日日新報』の記事を用いて、日本統治時代の亀山島島民の生活や外の世界に対する考え方の一端についての紹介があった。
長津一史氏は、特に海民と呼ばれる人々に注目し、東南アジアの海域世界について研究を進めてこられた。長津氏によると、海民の特徴として離散移住傾向の強さ、商業志向の卓越、ネットワーク中心の社会関係などが挙げられる。また、インドネシアのバジャウと呼ばれる海民の社会では、カリスマと追随者の服従、家族は集団ではなくある種の「圏」であるという顕著な特徴があり、これらは亀山島における「頭人(タウラン)」という固定化されないリーダーシップのあり方、(多くの漢人社会では集団としての「宗族」が際立つのに対して)「関係あり、組織なし」という人間関係のあり方と比較する際の軸になり得るのではないかとの問題提起があった。また、フロンティアとしての亀山島、さまざまな文化・モノが行き交う境域としての亀山島にも注目する可能性が開かれているとのコメントがあった。
上水流久彦氏は、台北市中心部の漢人コミュニティで文化人類学的フィールドワークを重ね、個人に注目することで都市化においてアソシエーションが果たす機能を分析されてきた。上水流氏からは、漢人社会の特徴を捉えるものとして王氏が打ち出した「関係あり、組織なし」という概念において、「個人」とは何を指すのか、それは『亀山島』で言及される「個人主義的志向」と「共同性志向」という二つの概念といかに関わるのかとの問題提起がなされた。
最後には、亀山島出身で現在は亀山島社区発展協会・理事長を務める簡英俊氏より、フィールドワーク中の王氏の思い出や、『亀山島』の翻訳書に寄せる思いについてお話があった。(文責:藤川美代子)