研究活動 活動報告
第4回公開シンポジウム「海を越えて南洋に渡った人たちの体験ー戦争とジェンダーの視点からー」(国際化推進事業関連企画)開催のお知らせ
2024年03月03日
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第4回公開シンポジウム「海を越えて南洋に渡った人たちの体験ー戦争とジェンダーの視点からー」(国際化推進事業関連企画)
日 時:2024年3月3日(日)、13:30~17:30
会 場:南山大学G25教室
主 催:南山大学人類学究所
プログラム:
13:30 開会挨拶
13:35-13:45 趣旨説明 張雅 (南山大学人類学研究所・非常勤研究員)
13:50-14:30 川島淳 (沖縄国際大学・非常勤講師)
「沖縄出身南洋移民女性の生業と戦争−ジェンダーの視点から―」
14:35-15:15 大久保由理 (東京大学・特任研究員)
「フィリピンで「大東亜共栄圏」建設を目指した青年:ジェンダーの視点から日記を読み直す」
15:20-16:00 張雅 (南山大学人類学研究所・非常勤研究員)
「1940年代に南洋へ赴く男性作家と女性作家の役割について 」
16:15-16:30 コメント 宮沢千尋 (南山大学・教授)
16:30-16:45 コメント 宮脇千絵 (南山大学・准教授)
16:45-17:30 質疑応答
17:30 閉会挨拶
参加登録:
対面参加・オンラインともにご参加いただくには事前登録が必要です。ご参加される方は、下記よりお申込みください(締切:3 月 3 日 12 時)
https://app.nanzan.ac.jp/regform/regist/univ/jinruikenreception/4thsymposium
*登録後、自動返信されるメールにZoomのリンクを掲載しています。当日はそこからご接続ください。
*お申し込み後に、対面参加とオンライン参加を変更していただいてもかまいません。またその際にご連絡いただく必要はありません。
開催趣旨:
本シンポジウムは、帝国日本の周縁に位置付けられた南洋という地域に視点を置き、戦争とジェンダーの関係性の観点から国策の動員体制による戦時・戦後における人の移動に注目し、戦争体験をめぐって、日本人移民や軍属、徴用作家らなどの体験がいかにジェンダー化されたのかを考察する。
報 告:
南山大学人類学研究所では、2024年3月3日に沖縄国際大学の川島淳氏と東京大学の大久保由理氏をお迎えし、「海を越えて南洋に渡った人たちの体験―戦争とジェンダーの視点から―」をテーマにしたシンポジウムを対面・Zoomのハイブリッド方式で開催した。このシンポジウムは南山大学人類学研究所の国際化推進事業の一環として、公開シンポジウムとして企画されたものである。対面では発表者を含めて14名、オンラインでは41名がご参加くださり、活発な議論が行われた。
川島淳氏のご報告では、戦時中の総動員体制という非常時の際には、南洋群島における引揚政策も性別役割分業に基づき、男性は南洋群島に残留し戦争遂行の協力に動員されたのに対して、女性や子供などは非戦力人員として引揚対象者とされていたことが明らかにされた。川島氏は引揚対象者の証言を引用しながら、日本政府の引揚の命令に応じて女性らが子供を連れて引揚を行ったことによって家族が引き裂かれてしまったことを検証した。他方で、引揚に際して生命の保障がなかったため、日本の引揚政策に従わず、現地に残留する女性もいたという。
大久保由理氏のご発表では、「拓南塾」の一期生としてフィリピンに派遣された伊藤敏夫の現地での綿作事業を携わる際に求められた役割は「軍政への協力」と「住民宣撫」であったことが指摘された。しかし、「拓南塾」で他民族を指導する理想の日本人像を抱いていた伊藤敏夫は現地で慰安所に通い性病を患った同僚ばかりを見て、理想と現実の齟齬から生じた釈然としない思いを抱くようになった。ご発表では、そうした伊藤の心中が彼の日記に書き綴られたことに対する考察も行われた。
張雅氏は1940 年代に南洋に派遣された作家らを中心に、派遣の時期、期間、活動などの面から、男性作家と女性作家に求められたそれぞれの役割の相違を解明した。戦時中の日本政府は、準兵隊として前線で戦争を記録する男性作家の役割と、知的な日本女性として占領地を見学する女性作家というように性別で役割を分けて任務を果たさせようとしていたのである。
登壇者のご報告後、ベトナム文化人類学の研究専門家である宮沢千尋氏から、南洋に渡って「異文化体験」をしたことがこれらの移民、軍属、作家らのその後の人生にどのような影響を与えたのかという問題提起がなされた。また、「民族衣装」の流通と消費について研究されてきた宮脇千絵氏からは、報告者の発表で取り上げられた日本人占領者らは現地の地域社会の経済活動といかに関わっていたのかという問題提起があった。
本シンポジウムは帝国日本史、東南アジア研究史など幅広い視点から議論が行われ、研究者同士の交流も深まり、大変有意義で充実なしたシンポジウムとなった。(文責:張雅)