研究活動 2021-2025年度
第2回公開講演会「先住民族の尊厳をいかに守るのか:台湾と日本の事例から」
2025年01月07日
第2回公開講演会「先住民族の尊厳をいかに守るのか:台湾と日本の事例から」
日 時:2025年1月7日(火) 9:10 ~ 10:50
会 場:南山大学G棟G27教室
主 催:南山大学人類学研究所
参加について:
※南山大学の学生・大学院生・教職員に限り、ご関心のある方のご参加をお認めします。ただし、座席数に限りがありますので、「異文化との接触3」の受講生の参加を優先します。
プログラム:
9:10~10:30 吳松旆氏(国立アイヌ民族博物館・アソシエイトフェロー)
「先住民族の尊厳をいかに守るのか:台湾と日本の事例から」
10:30~10:50 質疑応答
(司会:藤川美代子)
趣 旨:
台湾では2024年現在、総人口の約2%に当たる16の民族が「原住民族(先住民族)」として認定され、人口の大多数を占める漢民族と区別される。台湾の先住民族の多くはこれまでに、さまざまな形で植民地経験を受けてきたが、そこには日本にも深く関わっている。この講演会では、台湾の先住民族が歩んだ近現代の歴史を振り返るとともに、台湾と日本が現在、自国内の先住民族の文化や尊厳を守るために具体的に行ってきた/いること、その課題について考える。
報 告:
国立アイヌ民族博物館の吳松旆氏を講師として招き、「異文化との接触3」の授業時間内に、第2回公開講演会「先住民族の尊厳をいかに守るのか:台湾と日本の事例から」を開催した。
1982年、国連に先住民族作業部会が設けられたのを皮切りに、国際社会は先住民族に対する差別意識の解消と彼らの権利回復を目指して尽力し、それと同時に先住民族もまた自身の属する国家に対して法律や政策の改正を求める運動を展開してきた。そのようななか、台湾では1994年に9つの先住民族の法的身分が認められ(現在は16の民族が先住民族として認定されている)、日本では2019年にアイヌが先住民族として認定された。
ただし、現実の先住民族の権利回復には、さまざまな課題が伴う。それを象徴するのが、先住民族(indigenous peoples)には、国際的に統一された定義が不在であるという点である。これには、各先住民族の自認に応じて先住民族とは何かが決定されるべきとの理念が関係している。その実、これは先住民族自らによる権利回復の運動を通さなければ、相応する法律や政策の制定ができない恐れがあることを示してもいる。また、先住民族は、民族として自らの土地と歴史を持ち、独自の文化を守ってきたにもかかわらず、現代の文脈においては、意図せぬ形で帰属させられた国家の認定を受けなければ自身の存在や権利が認められないというジレンマも抱えている。
そのような国際的な背景の説明がなされた後、主に清朝、日本、そして中華民国による統治を経験してきた台湾で、先住民族の人々に対する支配の方法はいかに変化してきたのかが説明された。さらに、「正名運動」や先住民族テレビ公共放送局開設、先住民族小学校の開校、先住民族の言語の公用語化などといった台湾での取り組みについての紹介がなされた。最後に、講師が取り組んでいるアイヌ民族の権利回復をめぐる動きについても言及がなされ、先住民族の尊厳を守ることは、国家や行政のみならず、国民一人一人が意識すべきことであるとの結論が導かれた。(文責:藤川美代子)
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