社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第12回社会倫理研究奨励賞
2019年02月05日
2019年2月4日に行われた第12回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました。
- 受賞論文 「同性婚か?あるいは婚姻制度廃止か?―正義と承認をめぐるアポリア」
- 【掲載誌名】『国家学会雑誌』第131巻第5・6号、369-432頁、2018年6月
- 著者 松田和樹
受賞論文 講評
澤井実(第12回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
同性婚、LGBTなどのセクシュアル・マイノリティの「人間の尊厳」のために何をすべきかというアクチュアルな問題に対して、厳密な学問的検討を通して見通しを得ようとした力作である。同性婚と異性婚をともに「善きもの」と認めることによって、差別的意味秩序を変革しようとする立場を卓越主義として措定し、それをリベラルな立場から批判し、差別禁止法を意味秩序変革の有力な手段とする議論は説得的である。また法哲学だけでなく、フェミニズム理論などの知見も取り入れた意欲作である。欲を言えば、「差別的意味秩序」と具体的事象の往復関係をさらに豊かなものにすることができるのではないか。今後、本概念を歴史的・哲学的により実りあるものに具体化することが課題であろう。以上のような原理的な議論と現代社会の喫緊の課題との応答を通して、法哲学の新たな地平をさらに切り開くことを期待したい。
審査員賞
- 受賞論文 「原発事故避難者と二重の住民登録―ステークホルダー・シティズンシップに基づく擁護」
- 【掲載誌名】『政治思想研究』第18号、140-168頁、2018年5月
- 著者 松尾隆佑
講評
澤井実(第12回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
福島第一原子力発電所事故によって長期の避難を余儀なくされている避難者は現在もシティズンシップを不十分にしか保障されず、住民として十全な権利を行使できない状態におかれたままである。本論文はすでに提起されながら制度化には至っていない「二重の住民登録」の問題を取り上げる。政治的平等を「一人一票」としてのみ把握するデモクラシー観に修正を迫り、デモクラシーを集合的自己決定と理解し、さらに市民が複数の政治的共同体に同時に拘束を受けることを想定すれば、多重的なメンバーシップを有するケースは十分にあり得るとする。ただし例えば海外からの避難民と原発避難民との間に原理的な違いがあるのかどうかなど、原理的な議論を具体的なイッシューに適用する際の方法的手続きについてより厳密な議論が求められているといえよう。
最終候補論文
自薦・他薦併せて13篇の応募論文の中から、6篇を最終審査の対象とし、そのなかから最終候補に残った論文は以下のとおりです。
- 中村長史「出口戦略のディレンマ―構築すべき平和の多義性がもたらす難題」(『平和研究』第48号)
- 木山幸輔「人権の哲学の対立において自然本性的構想を擁護する―チャールズ・ベイツによる批判への応答」(『法と哲学』第4号)
- 永守伸年「障害者福祉における信頼」(小山虎編『信頼を考える』勁草書房)
第12回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 澤井 実(南山大学経営学部教授)【委員長】
- 谷口照三(桃山学院大学経営学部教授)
- 鈴木 真(名古屋大学大学院人文学研究科准教授)
- 石川良文(南山大学総合政策学部教授)
- 大竹弘二(南山大学国際教養学部准教授)
- 丸山雅夫(南山大学大学院法務研究科教授)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 篭橋一輝(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 森山花鈴(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)