「人道主義」は、「人間の痛みへの共感」という純粋な心情に基づくものとして称賛されがちです。苦しみの中にいる人を助けたい、という情熱の下で多くの人が行動しているのは周知の事実ですが、果たして、この理解は正しいのでしょうか。支援「する」側と支援「される」側の関係は、常に対称ではなく、実はそこに隠蔽された「権力性」があるということを考えてみる必要があるのではないでしょうか。
　このような問題意識の下で、今回は国際政治学がご専門の五十嵐元道先生をお招きして、過去の植民地支配から近年の平和構築に至るまでの言説構造の中に秘められた「トラスティーシップ」についてご報告頂きます。イギリス帝国は植民地統治を正当化するために、複雑な理論体系を必要としましたが、それとまったく同じように、冷戦後の人道的介入と平和構築も、その巨大化する権力を正当化するための理論体系を必要としてきました。今回の懇話会では、植民地統治をはじめとする「人道主義」が人道的だったということではなく、むしろ植民地統治の「理念」の形成に携わった人々の意識に人道主義が強く働いており、その言説構造が冷戦後の介入と統治においても再生産されているという五十嵐先生のご研究内容に基づいて、国際社会におけるトラスティーシップについて議論を深めたいと思います。

2014年サセックス大学国際関係学部博士課程修了、D. Phil (IR)。北海道大学大学院法学研究科高等法政教育センター助教、日本学術振興会特別研究員（PD）を経て、2016年より現職。

国際政治学、国際関係論

『支配する人道主義――植民地統治から平和構築まで』、岩波書店、2016年。
「トラスティーシップと人道主義 : 介入と統治のための「装置」に関する系譜学的分析」、『国際政治』、第175号、130-143頁、2014年。
「植民地統治における開発への思想的転換 : 貧困の発見と革新主義」、『年報政治学』、第2号、271-290頁、2014年。

『統治新論 民主主義のマネジメント』（國分功一郎との共著）、太田出版、2015年。
『正戦と内戦 カール・シュミットの国際秩序思想』、以文社、2009年。
「カール・シュミットと決断の根拠」、『政治思想研究』、第16号、62-84頁、2016年。