社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第1回社会倫理研究奨励賞
2008年02月20日
2008年2月20日に行なわれた第1回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論 文と決定いたしました。
- 受賞論文 「スマートドラッグがもたらす倫理的問題--社会と人間性--」
- 【掲載誌名】『UTCP研究論集』第8号、37-54頁、2007年3月1日
- 著者 植原 亮
受賞論文 講評
加藤尚武(第一回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
治療を目的としない医療行為が、今後の社会生活のなかで大きな意味を持つにいたっている。エンハンスメントと 呼ばれる健康増進効果をもつ薬物や、スポーツ界をにぎわすドーピングが治療を目的としない医療行為の主だったもの である。その中で精神生活の向上効果があるとみなされる「スマート・ドラッグ」について、考察したという点で、本 論文は極めて高いアクチュアリティを持っている。脳を操作する非治療的医療行為の問題が、今後生命倫理学の焦点と なることが予測されるので、本論文は、いくつかの重要な欠点はあるが、先駆的業績として評価することができる。
本論文がとりあげた通称「リタリン」は、注意欠損などの精神障害の治療薬として開発されたものであるが、アメ リカを中心として学生が成績向上のために使用する例が増えていると言われている。「学業成績を金で買うようなもの だ」という批判がでるが、自分を有利にするための個人の努力を制限することはできないという反論がなされる。この 薬品の副作用や、医薬品開発に投資された資金の適正利用という観点からも、問題視する声が上がっている。
受賞者は「道徳的分業」という価値多元論的な概念を導入することで、この問題の倫理的軋轢を解消する提案をし ているが、この点については倫理学的な本格的な再検討が望まれるものの、新しい研究課題に意欲的に取り組んだ態度 を高く評価するものである。
最終候補論文(佳作)
自薦・他薦併せて19篇の応募論文の中から、最終審査に残った最終候補論文は以下の通りです。
- 小島秀信「エドマンド・バークのインド論--伝統文化主義の新地平」
- 中川雅博「ロシア精神史における 戦争道徳論の系譜について」
- 中里裕美「地域通貨の取引行為にみられる経済-社会の相互関係に関する一考察--社会ネットワーク論の視点から 」
- 山本由美子「フランスにおける出生前診断の現状と胎児理由によるIVGの危機--ペリュシュ判決その後--」
第一回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 加藤尚武(鳥取環境大学名誉学長/東京大学特任教授)【委員長】
- 山田哲也(椙山女学園大学現代マネジメント学部准教授)
- 川﨑 勝(南山大学経済学部教授)
- 坂下浩司(南山大学人文学部准教授)
- 丸山雅夫(南山大学大学院法務研究科教授)
- 山田秀(南山大学社会倫理研究所教授)
- マイケル・シーゲル(南山大学社会倫理研究所准教授)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所准教授)