社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第7回社会倫理研究奨励賞
2014年02月05日
2014年2月5日に行なわれた第7回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました。
- 受賞論文 「宗教批判の自由と差別の禁止―イギリスにおける神冒瀆罪から宗教的憎悪扇動罪への転換に関する考察―」
- 【掲載誌名】『阪大法学』62巻5号、2013年1月31日、233-250頁および同62巻6号、2013年3月31日、135-155頁
- 著者 村上 玲
受賞論文 講評
野家啓一(第七回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
イギリスにおける「神冒瀆罪」の廃止とそれに代わる「宗教的憎悪扇動罪」の創設という興味深いテーマを、具体的事件と判例に基づいて歴史的プロセスを再構成し、論争点を浮き彫りにした労作である。論じられている問題は歴史的事象でありながらも、その射程はヘルマン・ラシュディの『悪魔の詩』事件、9.11以降のイスラム教排斥の動き、日本における在日韓国人に対する「ヘイトスピーチ」問題などにも及び、現代的意義も十分に備えている。学術的な厳密さとアクチュアリティの双方に軸足を置いて議論を展開している点が高く評価された。ただ、結論部分でわが国の「表現の自由」をめぐる状況に触れ、今後の対応についても論じられているが、この部分は少々短絡的な印象を免れず、刑罰規定による規制の是非などについて、今一歩立ち入った議論が期待される。そうした瑕瑾はあるものの、全体としては社会倫理の論文として受賞に値する意欲作である。
審査員賞
- 受賞論文 「「価値」の行方―中期ヴェーバーにおける政治の「意味」―」
- 【掲載誌名】『名古屋大学法政論集』第251号、2013年9月25日、43-92頁
- 著者 水谷 仁
講評
野家啓一(第七回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
これまでのヴェーバー研究の成果を踏まえながら、「価値」と「生の意味」をキーワードに新たな中期ヴェーバー像を描こうとした力作である。とりわけ後半部で、ヴェーバーのロシア革命に対する関心と自治組織「ゼムストーヴァ」に対する共感を掘り起こし、そこにヴェーバーの「生の意味」を読み取った功績は大きい。その意味で、学術性に関しては申し分ないが、社会倫理の論文としてはややアクチュアリティが欠如していることが惜しまれる。望蜀の言を述べれば、ヴェーバーのロシア革命理解が今日のロシア史研究に照らしてどのようなものであったかについても論究があれば、考察はより深まったものと思われる。今後の研鑽を期待したい。
最終候補論文
自薦・他薦併せて10篇の応募論文の中から、最終審査に残った最終候補論文は以下の通りです。
- 稲村一隆「自由主義と弁証法―ジョン・ロールズの反照的均衡について―」(『思想』第1072号、岩波書店)
- 佐々木拓「依存の責任論:ヤッフェの補償負担説と脳神経科学的依存理解」(『倫理学年報』第62集)
- 恒木健太郎「機械化された人間と独裁―カルヴァン像の一系譜」(青地伯水編『啓蒙と反動』春風社)
第七回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 野家啓一(東北大学名誉教授)【委員長】
- 瀬口昌久(名古屋工業大学教授)
- 安藤史江(南山大学大学院ビジネス研究科准教授)
- 丸山雅夫(南山大学大学院法務研究科教授)
- 山田哲也(南山大学総合政策学部教授)
- マイケル・シーゲル(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 大庭弘継(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 鈴木真(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員