社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第8回社会倫理研究奨励賞
2015年02月05日
2015年2月5日に行なわれた第8回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました
- 受賞論文 「介護職員の虐待認識に基づいた高齢者虐待定義の再構築への試み―「準虐待」の構造と特徴に着目して―」
- 【掲載誌名】『社会福祉学』第54巻4号、57-69頁、2014年2月28日
- 著者 任 貞美
受賞論文 講評
野家啓一(第八回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
介護職員5000人を対象にした質問紙調査を基に、高齢者への虐待認識を詳細に分析し、そこから「準虐待」という新たなカテゴリーを析出した労作である。考察は実証的で手堅く、これまで可視化されてこなかった「準虐待」という行為を析出した功績は大きい。本論文が介護施設における虐待問題を捉えなおす新たな視座を提供したことは高く評価されてよい。ただし、「準虐待」というネーミングが適切かどうか、また質問項目と考察結果の妥当性等については再考の余地がある。さらに、介護職員への調査のみならず、被介護者へのインタビュー等も併せて実施されたならば、より多角的な考察が可能になったものと思われる。今後の課題としては、「準虐待」の倫理的意味をめぐる検討がなされることを期待したい。
審査員賞
- 受賞論文 「動物倫理における文学の役割」
- 【掲載誌名】『倫理学年報』第63集、231-244頁、2014年3月30日
- 著者 久保田 さゆり
講評
野家啓一(第八回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
きわめて興味深いテーマを扱った論文であり、文学と哲学との関係について重要な視点を提起したことは高く評価できる。日本ではまだ一般的に議論されることの少ない「動物の権利」をめぐる問題に着眼し、従来の哲学的議論を文学の視点から補完するというユニークな分析を展開した点は新鮮であり、将来性を感じさせる。しかし、「文学のもつ影響力」の考察がほとんどザミールの議論に依拠しており、また肝心のクッツェーの小説『動物のいのち』の理解がアールトラの解釈に依存するなど、著者のオリジナリティーが見えにくい論述になっている。テーマ自体は今後の発展が期待されるものなので、さらなる考察の深化を望みたい。
最終候補論文
自薦・他薦併せて10篇の応募論文の中から、最終審査に残った最終候補論文は以下の通りです。
- 伊吹友秀「性別の選択を目的とした着床前診断(PGD)の利用の是非に関する生命倫理学的考察」(『生命倫理』25号)
- 今井宏平「グローバル化と国際関係理論の多様化―非西洋の国際関係論が与える理論的インパクト―」(星野智編著『グローバル化と現代世界』中央大学出版部)
- 高澤洋志「保護する責任(R2P)論の「第3の潮流」―2009年以降の国連における言説/実践を中心に―」(『国連研究』第15号、国際書院)
- 田中極子「大量破壊兵器のデュアル・ユース性管理―生物兵器禁止条約における発展」(『社会科学ジャーナル』第77号)
第八回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 野家啓一(東北大学名誉教授)【委員長】
- 瀬口昌久(名古屋工業大学教授)
- 安藤史江(南山大学大学院ビジネス研究科准教授)
- 石川良文(南山大学総合政策学部教授)
- 丸山雅夫(南山大学大学院法務研究科教授)
- マイケル・シーゲル(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 大庭弘継(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 鈴木真(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員