社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第14回社会倫理研究奨励賞
2021年02月05日
2021年2月4日に行われた第14回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました。
- 受賞論文 「外国人労働者の一時的な受け入れはどんなときに不正になるのか」
- 【掲載誌名】『思想』No.1155(2020年7月号)、岩波書店、61-81頁、2020年6月
- 著者 岸見太一
受賞論文 講評
石田淳(第14回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
今日の外国人労働者の一時的受け入れ制度において、外国人労働者の権利は国民のそれとの比較において著しく制約されている。はたして、この格差は正当化されるのか。本論文は、雇用関係の正当性をめぐる契約当事者の自発性に着目する立場と、労働者・雇用者・国家の関係性に着目する立場とを対置する。そのうえで、19世紀の年季契約労働者と今日の移住労働者との共通性を手掛かりに、集団とその構成員との関係に関するA・ハーシュマンの理論枠組み(A. O. Hirschman, Exit, Voice and Loyalty. Harvard University Press, 1970.)も応用して、国家が労働者を雇用主に対して脆弱な法的地位、すなわち離脱と発言の権利が保障されることない状態に置くことは不正であるとする。紙幅の制約の中で、今回は十分に論じられなかったと思われる法制度の実態や改善の方向性などについては、今後の研究におけるさらなる考察を期待したい。総じて、歴史的なアナロジーも、理論的な説明もわかりやすく、アクチュアルな問題を深く広く考えさせる論考である。
審査員賞
- 受賞論文 「攻撃性をともなう依存者へのケア―自閉症児の母親トルーディ事例の検討」
- 【掲載誌名】『立命館文學』第665号、239-252頁、2020年2月 論文PDF
- 著者 小西真理子
講評
石田淳(第14回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
保護と愛を必要とした脆弱な息子の暴行によって、その母親トルーディ・シュトイアナーゲルは死亡した。「自閉症」政策の専門家でもあった母親は、障害学における医療モデルと社会(構築)モデルの二つの系譜を意識しつつ、自閉症について、自閉症者が施設に収容されずに社会に包摂されて生きることを可能にする対応(医療、教育、行政サーヴィスを含む)の立ち遅れを論じていた。本論文は、脆弱であると同時に攻撃的でもある被保護者へのケアという観点から、これまでの「ケアの倫理」の限界を明らかにしようとする意欲的な論考である。
個人化した現代において、社会的な包摂はいかにして可能か。社会は、攻撃性を伴う被保護者のみならず、その被保護者をケアすることを進んで引き受ける家族をいかに包摂しうるのか。多くの難題をこの論文は私たちに突きつけている。
最終候補論文
自薦・他薦併せて12篇の応募論文の中から、6篇を最終審査の対象とし、そのなかから最終候補に残った論文は以下のとおりです。
- 井保和也「「お前が言うな」と非難の哲学―非難の非偽善性条件を検討する」『Contemporary and Applied Philosophy』No. 11)
- 呉羽真「テレプレゼンス技術は人間関係を貧困にするか?」(『Contemporary and Applied Philosophy』No. 11)
- 朱穎嬌「婚姻と家族と個人の尊厳―ケアの倫理に基づく関係論的な尊厳構想を中心に(1)(2・完)」(『法学論叢』186巻3号・4号)
- 鈴木智気「リーダーはどのように「サーバント」となるのか?:サーバント・リーダーシップの修得プロセスにおけるリーダー・フォロワー間の動態的相互作用に関する探索的事例研究―水産加工会社パプア・ニューギニア海産の事例」(『同志社商学』第71巻第4号)
第14回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 石田 淳(東京大学大学院総合文化研究科教授)【委員長】
- 中野涼子(金沢大学人間社会研究域法学系教授)
- 大竹弘二(南山大学国際教養学部准教授)
- 篭橋一輝(南山大学国際教養学部准教授)
- 阪本俊生(南山大学経済学部教授)
- 三好千春(南山大学人文学部教授)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- ウィニバルドス・ステファヌス・メレ(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 森山花鈴(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)