社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第16回社会倫理研究奨励賞
2022年11月02日
2022年11月1日に行われた第16回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました。
- 受賞論文 「国際刑事裁判所をめぐるアフリカ連合の対外政策の変容:アフリカの一体性と司法化の進捗からの考察」
- 【掲載誌名】日本平和学会編『平和研究』第57号、137-165頁、2021年12月 論文PDF
- 著者 藤井広重
受賞論文 講評
村本邦子(第16回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
本論文は、「政治の司法化」の概念に着目しながら、アフリカ連合(AU)が2009年以降進めてきた国際刑事裁判所(ICC)に対する批判的政策の変容過程を検証したものである。
AU設立の背景には汎アフリカ運動の流れがあり、これは、アフリカおよびアフリカ人の断片化と国際社会での周縁化に対し、文化、政治、経済的な解放を目指すだけでなく、社会的結束の意味があった。大国による長きにわたる植民地支配と抑圧・搾取によって力を奪われ、分断させられてきたアフリカが、AUをアリーナとして団結することで主体を形成し、権利を主張し、戦略的に国際関係を「司法化」しながら交渉を行い、同時に「責任としての主権」という考え方からアフリカ内部での課題に取り組もうとしてきたそのプロセスは、その国際政治的意義に加え、集合的レベルでの尊厳の侵害と歴史的トラウマからの回復という点からも力強く感動的である。アフリカのこのような動きがICCに批判的視点を突き付け、公正と正義の実現に向けて後押しした側面もあり、そこに批准していない大国をも含めた世界に対して、異議申し立てと改良を迫るものでもあっただろう。
本論文ではアフリカ諸国の一体化に焦点が置かれているが、今後は民衆の視点も踏まえて、国際社会におけるアフリカ諸国の主体性についてより踏み込んだ分析が期待される。また、戦略としての「司法化」については複雑な政治力学を考慮した慎重な批判的検討が求められるが、「政治の司法化」という切り口でこのようなプロセスを描き出した点は斬新であると高く評価できる。今後さらなる展開が期待される労作である。
審査員賞
- 受賞論文 「明治後期の福祉領域における宗教の公共的機能:巣鴨監獄教誨師事件とその後の展開」
- 【掲載誌名】『宗教と社会貢献』12巻1号、1-27頁、2022年4月
- 著者 井川裕覚
講評
村本邦子(第16回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
本論文は、1898年に起きた巣鴨監獄教誨師事件に焦点を当て、近代日本の福祉をめぐる公共空間の形成過程において、宗教がいかなる機能を担ったのかを明らかにしようとしたものである。
国家主義的な近代日本において、宗教関係者が社会問題に自律的に働きかけ、福祉をめぐる公共空間の形成に寄与したこと、政府やキリスト教、仏教関係者が各々の倫理観を掲げながら福祉活動に参与し、相互に影響を受け、近代日本の福祉領域における倫理観が醸成されたことを知ることは、現代の福祉制度のあり方を考えるうえで大きな力になるし、希望にもなると思われる。他方で、そのように始まった多様なアクターによる公共圏の構築が、その後、国家の支配政策の一役を担う社会教化機関へと変質し、戦時下の国家的厚生事業へと展開したプロセスを丁寧に辿る作業が不可欠だろう。さらなる研究に期待したい。
最終候補論文
自薦・他薦併せて15篇の応募論文の中から、5篇を最終審査の対象とし、そのなかから最終候補に残った論文は以下のとおりです。
- 秋葉峻介「医療・ケアをめぐる自己決定における自他関係と関係的自律」(『生命倫理』32号)
- 閻亜光「職場で行われるLGBT施策に対する認識ズレ及び職場環境分析:LGBT当事者と非当事者男女との比較を用いて」(『社会システム研究』43号)
- 大庭大「生産性と相互性のリベラリズム再考:ロールズ主義における障害者包摂をめぐって」(『年報政治学』2021-II号)
第16回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 村本邦子(立命館大学大学院人間科学研究科教授)【委員長】
- 中野涼子(金沢大学人間社会研究域法学系教授)
- 大竹弘二(南山大学国際教養学部准教授)
- 篭橋一輝(南山大学国際教養学部准教授)
- 阪本俊生(南山大学経済学部教授)
- 三好千春(南山大学人文学部教授)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- ウィニバルドス・ステファヌス・メレ(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 森山花鈴(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)