社会倫理研究奨励賞 歴代受賞論文
第17回社会倫理研究奨励賞
2023年11月14日
2023年11月13日に行われた第17回社会倫理研究奨励賞選定委員会における厳正な審査の結果、下記論文を受賞論文と決定いたしました。
- 受賞論文 「モラル・ベジタリアニズムを擁護する新しい論証:I. M. ヤングの責任の社会的つながりモデルに着目して」
- 【掲載誌名】『フィルカル:分析哲学と文化をつなぐ』vol. 8、no. 1、334-363頁、2023年4月
- 著者 石原諒太
受賞論文 講評
村本邦子(第17回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
本研究は、モラル・ベジタリアニズムを支持する論証について議論したものである。著者は、まず、D.ドュグラチィアとT.マクファーレンという二人の論者の論点を明確にし、その論旨の弱さを整理し緻密に反証したうえで、I. M. ヤングの責任の社会的つながりモデルから着想を得た責任の分有と集合的有効性の原理に依拠する論証を提示した。
テーマとしてはモラル・ベジタリニズムという特化された小さな領域を扱っているものの、本論文で展開された議論は、そこに留まらず、付随する人間と動物の関係、食の倫理、人間の生き方にまで発展する潜在力を感じさせるものであり、さまざまな形で禁止の倫理を呼びかける急進的な活動に対し、より現実的な文脈において多くの人々の共感を呼び実行可能な「柔らかい倫理」とでも呼び得るような、本来の倫理的あり方を考えさせる。
シンガーやリーガンといった功利主義、権利論に対し、倫理学において重要な責任という概念を援用して議論を展開する今後の展望にも触れられており、今後、さらに倫理学のなかでの挑戦、および広く社会正義に関わるより広いテーマの議論にも展開されていくものと期待している。
審査員賞
- 受賞論文 「日本キリスト教協議会(NCC)加盟教会における女性の按手:エキュメニカルな課題として」
- 【掲載誌名】富坂キリスト教センター編『日本におけるキリスト教フェミニスト運動史:1970年代から2022年まで』新教出版社、152-165頁、2023年6月
- 著者 藤原佐和子
講評
村本邦子(第17回社会倫理研究奨励賞選定委員会委員長)
キリスト教の歴史において、全世界のキリスト教徒の過半数を女性が占めているにも関わらず、「女性の按手」は長く受け入れられず、20世紀のエキュメニカル運動における最古にして最大の未解決課題のひとつであり続けている。本論文は、日本キリスト教協議会(NCC)加盟教会におけるこの問題の歴史的経緯を追ったものであり、それぞれ取り組みに相違はあるが、活発な議論が記録されている日本聖公会における運動を見ると、この問題に関心を向ける信者たちの辛抱強い運動の歴史があり、国際的連携に支えられて少しずつ展開してきたことが確認できる。
この問題は、差別や排除という重要な倫理的問題でありながら、各宗教界内部に閉ざされ、十分に学術的議論がなされてきたとは言い難いことを外部に対しても可視化したという点に本論文の価値があると考えられる。本論文では言及されていないカトリック教会を含めて、フェミニスト神学をはじめ開かれた議論が今後活発に展開されていくことを期待するものである。
最終候補論文
自薦・他薦併せて14篇の応募論文の中から、6篇を最終審査の対象とし、そのなかから最終候補に残った論文は以下のとおりです。
- 秋葉峻介「共同意思決定は自律・自己決定の限界を克服したのか:意思決定主体再考に向けて」(『医学哲学医学倫理』第40号)
- 小林綾子「紛争再発と和平合意」(『国際政治』第210号)
- 朱穎嬌「トランスヒューマニズムの倫理的・法的問題と人間の尊厳」(『憲法研究』第12号、信山社)
- 中西亮太「ロールズの正義感覚の思想史的研究:ピアジェからの影響に焦点を当てて」(教育思想史学会『近代教育フォーラム』第31号)
第17回社会倫理研究奨励賞選定委員会
- 村本邦子(立命館大学大学院人間科学研究科教授)【委員長】
- 眞嶋俊造(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授)
- 石川良文(南山大学総合政策学部教授)
- 大竹弘二(南山大学国際教養学部准教授)
- 阪本俊生(南山大学経済学部教授)
- 三好千春(南山大学人文学部教授)
- 奥田太郎(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- ウィニバルドス・ステファヌス・メレ(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)
- 森山花鈴(南山大学社会倫理研究所第一種研究所員)