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「社会的レジリエンス」研究プロジェクト(2015年-)
2016年07月01日
私たちの社会は過去に幾度となく、危機的な状況に直面してきました。地震や津波、水害、渇水などの自然災害はとりもなおさず、テロや紛争、金融不安、不況などの社会的・経済的な事象によっても、私たちの生活は大きな影響を受けてきました。このような危機的な状況が予見される中であっても、私たちが将来に向かって福祉水準を維持していくためには、どうすれば良いのでしょうか。本研究プロジェクトでは、この問いに対して「社会的レジリエンス(social resilience)」という概念を通じて考察を深めます。
社会的レジリエンスとは、「ある集団やコミュニティが、社会・政治・環境の変化によって生じる外的なストレスや撹乱に対処することのできる能力」(Adger, W.N. 2000. "Social and Ecological Resilience: Are They Related?" Progress in Human Geography 24 (3): 347-64.)として定義されていますが、その決定要因や実現条件に関してはまだ研究途上にあります。その一方で、社会倫理の観点からは、レジリエンスというシステム概念を社会のレベルで適用したときに生じうる倫理的問題も扱う必要があります。例えば、社会が大崩れしないという目的の下で、社会の構成員である個人に対してどこまでの負担や犠牲が許容されうるのでしょうか。「社会の存続」と「個人の福祉」の間に何らかの緊張関係が存在するとき、私たちは両者のバランスをどのように考えたら良いのでしょうか。
こうした問いは、地球温暖化や生物多様性の喪失、放射性廃棄物の管理などの超長期の環境問題を考えるときにも重要な論点となります。これらの超長期の環境問題は、将来世代の人々の暮らしに不可逆的な損失を引き起こす可能性がありますが、それがどの程度の影響となりうるか、私たちは完全に知ることはできません。しかし、そのような不確実性が存在する状況下であっても、将来世代の人々が尊厳ある暮らしを維持できるようにすることは、現代に生きる私たちの責務の一つと言えるでしょう。このような文脈では、遠い将来に起こりうる福祉の損失や被害の不確実性を前提としつつ、「将来世代」と「現在世代」の間の緊張関係を乗り越えていく社会のあり方を探求するための概念として、社会的レジリエンスを位置づけることができます。社会的レジリエンスを考えることは、私たちが次の世代に具体的に何を引き継いでいくかという持続可能性(sustainability)の内実を明らかにしていく作業であるとともに、現在世代と将来世代の間の関係性を問い直すことでもあります。
このような問題意識の下、「社会的レジリエンス」研究プロジェクトでは、これまで社会倫理研究所で実施されてきた「ガバナンスと環境問題」研究プロジェクト(2009年〜2015年)を発展的に引き継ぎ、社会的レジリエンスの考え方を環境問題の文脈に適用する際に生じる様々な課題や論点に関して、経済学や倫理学、歴史学、社会学等の観点から学際的に掘り下げていきます。本研究プロジェクトを通じて、社会的レジリエンス概念が持つ正の側面と負の側面の両方に光を当て、社会的レジリエンスと人間の福祉水準の維持・向上を両立させるような制度的基盤を構想していきます。