COLLECTION今泉隆平コレクション

STORY

モノの履歴(バイオグラフィー)を考える

マランガン像(パプアニューギニア、今泉コレクション、Ⅳ-233)

日本国内の博物館や学術機関には、オセアニア地域に由来する民族資料が多数収蔵されている。近年、民族資料の履歴(バイオグラフィー)を編み直す研究が進展してきた一方で、未だ履歴の解明が十分でない資料や履歴が一切不明の資料も多い。

民族資料は、製作・使用・交換・収集・収蔵・展示の中で様々な人やモノ、コトと出会い、履歴を積み重ねてきたモノである(山口 2022:546)。周知のとおり、欧米諸国の博物館や研究機関を中心に、収集されたモノの「制作・使用の現場」やモノを巡る「収集・交渉の現場」における様々な主体の意図や思惑の絡み合い・せめぎ合いに関する議論が展開されてきた。さらには、「管理・展示の現場」においてモノや付随する文字・画像情報がどこで、どのように管理、記録、整理されたのかといったことにも目を配ることが、履歴の記述においては重要である(臺 2025:2)。例えば、収蔵先における整理作業もまた、整理作業者(人)と博物館資料(モノ)が関りながら歴史的に行われてきた営為であり(如法寺 2017:143)、モノの履歴を形成するプロセスの一つとして位置づけることが可能である。また、資料の「研究来歴」に着目し、資料に対して行われてきた研究の歴史に照射した本間の議論を援用すれば(本間 2016:23)、民族資料の研究来歴を整理することを通じて、研究者がモノの履歴の更新に関与してきたことを浮かび上がらせることが可能となる。

モノの履歴とは、製作から現在に至るまでに積み重ねられてきた歴史的コンテクストである。しかしながら、履歴が不明確ないし一切不明な資料が多く存在することも事実である。こうした履歴が曖昧なモノについても可能な限り情報を収集し、個々の内容を精査、記述することを通じてモノの履歴を明らかにしていくことが、資料の管理主体の重要な職責であることは改めて指摘するまでもない(cf.大阪・大矢 2023:35)。

履歴を明らかとする手段としては、第一に文字情報や画像情報の整理・分析が挙げられる。これらの情報は博物館等のアーカイブ資料(日誌や書簡、古写真や映像フィルムなど)のみならず、書籍や雑誌に掲載された記事や論文、資料本体に付随するラベル類などを丹念に読み解き、拾い上げていくことが肝要である(cf. 如法寺 2017;臺 2025)。加えて、植民地主義研究において人類学が採りうるアプローチの1つとして、非言語史料であるモノ(民具・民族資料)を対象とした歴史分析があり(大西 2014:48)、特に直接的な史料が限られる地域の植民地的状況を析出するにあたっては、モノの形態的特徴や意匠を詳細に検討する物質文化研究の手法が有用であることが指摘されている(山口 2015:41)。こうした議論を踏まえると、モノの形にも積み重ねてきた履歴が刻み込まれていると理解してよい。文献等に掲載される文字情報や画像情報とモノの形態的特徴を相互補完的ないし反証的に把握していることを通じて、モノの履歴にまつわる現場の様相を明らかにすることが、民族資料を所蔵する博物館や学術機関に求められているのではないだろうか。

参考文献

  • 大坂拓・大矢京右 2023 「市立函館博物館が所蔵する噴火湾アイヌの木幣について-資料情報を復元・再検討する試み-」『北海道博物館アイヌ民族文化研究センター研究紀要』8:35-58
  • 大西 秀之 2014 「植民地支配が迫った技術選択 ― バイダルカに刻まれた露米商会の経営 ― 」『国際常民文化研究叢書』5:47-58
  • 臺浩亮2025 「慶應義塾大学所蔵『大石・町田コレクション』の『管理・展示の現場』に関する一考察」『史学』94(4):1-59
  • 如法寺慶大 2017 「博物館資料の継承に向けて-南山大学人類学博物館所蔵民族誌資料の資料番号の歴史的検討からー」『アルケイアー記録・情報・歴史-』11: 139-177
  • 本間友 2016 「アーカイブにおけるレファレンス事例の共有化:研究来歴(Research Provenance)蓄積・活用の試み」『大学図書館研究』104:19-26
  • 山口徹 2015 「ウリ像をめぐる絡み合いの歴史人類学―ビスマルク群島ニューアイルランド島の造形物に関する予察」『史学』85(1-3): 401-439
    2022 「民族資料を精読する:旧オランダ領ニューギニアの犬形木製彫像」『国立民族学博物館研究報告』46(4):543-563

KEYWORD

パプアニューギニア

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