
銃床型棍棒(フィジー、今泉コレクション、VI-123-N)
1. 棍棒、うごめくエネルギー
博物館の資料室に足を踏み入れた瞬間、私は圧倒された。一面に並ぶ棍棒の群れが、静止しているにもかかわらずうごめくエネルギーを放っているように感じられたからだ。ずしりと重みのある打突部、木目の走る曲線、刃のように鋭い突起、磨きあげられた艶やかな質感。美しくも妖しく、繊細ながらも豪快なそれらに、力と美が結晶した物質文化の証を感じた。
フィジーは彫像製作が少なく立体造形のバリエーションにやや乏しいと指摘されることもあるが、戦闘具という一点には執念を注ぎ、多様な型を発達させてきた。棍棒のなかでも、たとえばイ・ウラ(VI-125-N)は短く投擲可能な棍棒で、戦場での機動性をもつ。トトキア(VI-119-N)は先端に突起を持ち、敵の頭蓋骨を破壊しないまま貫通することに特化した形状だ。頭蓋骨はときに村落内の寺院に飾られ、嘲笑された。長大なサリ(VI-123-N)は、戦闘だけでなく首長の権威を示す儀礼具としても用いられた。こうして棍棒はたんなる殺傷具を超え、男性性や階級、権力を生みだし可視化する物質文化として、戦闘文化の重要な一部を成していた。
しかし、この魅惑的な棍棒の集合を前にして、私は二つの背景も考えざるを得ない。一つはヨーロッパによる男性的フィジー表象の歴史、もう一つは現代フィジーにおける男性的国家像の演出である。
2. ヨーロッパによる男性的フィジーの表象
19世紀、フィジーは「人食いの島」として西洋に知られ、戦闘的で男性的なイメージが強調された。探検記や宣教師の報告で頻繁に登場する棍棒を携えた戦士の挿絵は、読者に危険な他者としてのフィジー像を刷り込んだ。こうした視覚資料は、フィジー社会を「野蛮」「戦闘文化」として固定し、植民地支配を正当化するための政治的装置でもあった。
フィジーの棍棒は好んでヨーロッパ人によって収集もされ、フィジーを男性性と暴力に結びつける物語はモノそれ自体のなまなましさを伴って継続的に構築された。この過程で、棍棒は異国の野蛮さを象徴するオブジェとして広く知れわたった一方で、フィジー文化の複雑さや女性の役割は後景に追いやられていった。今泉コレクションにおいてもフィジーの資料25点中じつに22点が棍棒で構成されており、当時の収集界の様子を例証している。
3. 現代フィジーの男性的国家表象
このような他者表象は、フィジー自身の自己認識にも影響を与えてきた。植民地期以降、戦士のイメージは国家イベントや観光の場で引き続き利用され、男性的フィジー像が伝統として再構築されていったのである。フィジーのリゾートや観光名所を訪れれば、かならずと言っていいほど戦士の衣装に身を包んだフィジー人男性が歓迎してくれるだろう。国民的スポーツであるラグビーにおいて、ニュージーランドやサモアと並び試合前に披露される戦士の踊りジンビはもはや恒例である。そして、男性性・腕力・権力という三者を緊密に関係づけるはたらきをもつ「バティ(戦士)・イデオロギー」が国内的にも対外的にも利用され、強靭なフィジーを演出してきたのだった。
しかし、こうした国家表象はジェンダー不平等の問題とも無縁ではない。男性的バティの過剰な称揚は、女性の声を周縁化し、暴力を構造的に温存する要因となってきたことが指摘されている。フィジーのジェンダーギャップ指数は、2025年現在対象国148カ国中の126位という低順位にある。また女性へのドメスティック・バイオレンスの発生率も非常に高く、近年では6割以上の女性が被害に遭っていると報告されている。
4. 関係性を紡ぐ女性工芸
他方で、フィジーにはタパ布(マシ)やマット(インベ)をはじめとする女性の担う工芸が存在し、中心的な儀礼財として機能している。樹皮を柔らかくし叩き延ばして作るタパ布は、婚礼や葬儀をはじめ贈与交換儀礼で供与される定番品で、血縁や土地に基づく社会関係を紡ぎ呈示する(IV-531-N)。パンダナスの葉を編んで作るマットも同様に主要な儀礼の場で供与され、家屋の床を覆い人々を迎える礎となる。双方とも複雑な製作工程において多くの人びとを動員し、社会関係を築く場として機能していることも注目に値する。女性工芸は、戦闘具とは異なる形で関係性を紡ぐ営みであり、コミュニティ再生の可能性を秘めている。
5. おわりに
棍棒の集合を前に感じた圧倒的なエネルギーは、フィジー文化の一側面を凝縮したものだ。フィジーの複雑な信仰体系や首長制度は戦闘の歴史を抜いて理解することはできないし、戦闘具に見られる造形はフィジーの物質文化の中でも群を抜いて精緻なものである。他方で、戦闘文化や男性表象の歴史の影で、女性工芸が周縁化されてきたのもたしかである。
今こそ改めて、棍棒の造形に宿る力を、女性工芸が内包する力との交差点においてとらえ直す視点が求められる。今泉コレクションのうごめくエネルギーに直接触れることは、そのよい契機となるだろう。
KEYWORD
棍棒
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