今井 祥子
専門
今や日本食は、アメリカ合衆国をはじめ世界中に広がっています。私はこの現象について、文化地理学という、地域の文化や人のつながりをひも解く学問の視点から研究しています。
ニューヨークにある日本食レストラン
Genjiの「雑穀米のサーモンアボカドロール」
研究を始めたきっかけ
小学生の頃、家族の仕事の都合でアメリカに少しの間住んだことがあります。その時、現地の暮らしのなかで日本のお菓子がとても恋しかったのを覚えています。
ところが日本に帰国してからは、街でアメリカのお菓子を見かけるたびに、今度はアメリカで過ごした日々が懐かしく思い出されるようになりました。この経験から「もう一度アメリカで生活したい」という夢を抱き、大学では北米地域研究を専攻しました。
その後、念願が叶ってアメリカへ留学したとき、現地の食文化の多様性に驚かされました。そのなかでも、自分が慣れ親しんだ日本食が、現地の人々にどのように受け入れられているのかに強い興味を持ったことが、今の研究の原点です。
研究の学術的意義
大学院に入ってからは、世界中で大人気の日本食レストラン「Nobu(ノブ)」のオーナーシェフ、松久信幸(まつひさ のぶゆき)氏に注目して研究してきました。
松久シェフは東京の寿司店で修行した後、ペルーへ渡って現地の食文化を吸収し、その後にアメリカで独自の「ノブスタイル」という新しい料理を完成させました。ロサンゼルスからニューヨークへ進出したことで人気がいっそう高まり、今では世界中に60店舗以上を展開しています。
私の研究では、この世界的な大成功の要因が、松久シェフによる巧みな「本物らしさ(真正性)」の創造と、世界中から人・モノ・カネをつなぐ「料理のグローバルなネットワーク」の構築にあることを明らかにしました。
研究の社会的意義
「食べること」は、私たちの毎日の生活に欠かせないものです。しかし、日常生活であまりにも当たり前のものであるために、これまで学問として深く研究される機会は長く見落とされてきました。
この研究を通して、多くの人に食べるということについて、改めて深く考えるきっかけを届けられたら嬉しいです。また、料理人(シェフ)たちはその素晴らしい技術で私たちを魅了するだけでなく、異なる文化を受け入れる橋渡しをする重要な任務を負っているといえます。こうした文化の担い手たちにスポットを当てることで、より豊かな文化の交流や国際理解に貢献したいと願っています。
将来の研究の展望
現在は、国内外の「菜食主義(ベジタリアンやヴィーガン)」の現在に関心を持っています。
実は日本には、1000年以上も肉を食べない菜食の歴史がありました。それが明治時代以降、ライフスタイルの欧米化によって、わずか100年ほどで一気に肉食文化へと激変したのです。これほど短期間で食生活が変わったのは驚くべきことです。
しかし近年、今度は逆に欧米からのトレンドや、健康志向や環境問題、動物愛護といった視点から、日本でも再び菜食主義への注目が高まっています。この食のブームの逆流や、場所による受け入れられ方の違いについて、地理学の視点からその背景にあるメカニズムを深く探求していきたいと考えています。
代表著書
研究者紹介
