山岸 敬和
専門
研究を始めたきっかけ
アメリカの大学院で学んでいた際、指導教員が医療政策を研究していたことが、この分野に関心を持つ最初のきっかけでした。また、私自身がアメリカで大きな怪我をして病院を訪れた際、受付で患者と病院職員が医療保険をめぐって激しく言い争っている場面を目の当たりにしました。日本ではほとんど見られない光景であり、「なぜアメリカでは医療のアクセスが保証されていないのか」と強く疑問に思ったことが、その後の研究につながっています。
研究の学術的意義
博士論文では、第二次世界大戦期の戦時動員政策が、日本とアメリカの医療保険制度の形成にどのような影響を与えたのかを比較研究しました。特に、医師会や保険者、政府などの利害関係者の力関係がどのように変化し、その後の政策発展を方向づけたのかを分析しました。歴史的制度論には、「決定的転機(critical juncture)」と呼ばれる重要な概念があります。これは、戦争や経済危機などの大きな出来事によって制度が大きく方向転換する現象を説明するものです。私の研究は、その理論を医療政策研究に応用しながら発展させることを目指してきました。
研究の社会的意義
「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という言葉があります。歴史的制度論は、その「韻」の部分を科学的に明らかにしようとする試みだと考えています。政策はしばしば目の前の政治的対立によって決まるように見えますが、その背後には長い歴史の中で形成された制度や権力関係が存在しています。なぜ改革が進まないのか、なぜある政策が繰り返し支持されるのかを理解するためには、歴史的な視点が欠かせません。私の研究が、私たち自身の社会や民主主義の未来を考える際の一つの手がかりになればと考えています。
将来の研究の展望
現在は、アメリカの薬物政策、とりわけオピオイド危機やフェンタニル問題について研究を進めています。これまで私は一貫して、社会的・経済的に弱い立場に置かれた人々が、どのように社会の周辺へと追いやられていくのかという問題に関心を持ってきました。薬物依存をめぐっては、それを個人の責任とみなすのか、それとも社会の責任として捉えるのかという根本的な問いがあります。また、薬物問題は人々の不安や分断を生み出し、政治や民主主義にも大きな影響を与えます。薬物政策の研究を通じて、現代社会が抱える課題をより深く理解し、民主主義や社会のあり方について考えていきたいと思っています。
代表著書
研究者紹介
